平家物語
祇王
京中の白拍子ども、祇王が幸(さいはゐ)のめでたいやうを聞いて、うらやむものもあり、そねむ者もありけり。うらやむ者共は、
「あなめでたの祇王御前の幸(さいはゐ)や。おなじあそび女とならば、誰もみなあのやうでこそありたけれ。いかさまこれは、祇といふ文字を名について、かくはめでたきやらむ。いざ我らもついてみむ」
とて、或(あるひ)は祇一とつき、祇二とつき、或(あるひ)は祇福、祇徳なんどいふ者もありけり。そねむものどもは、
「なんでう名により、文字にはよるべき。幸(さいはゐ)はただ前世の生まれつきでこそあんなれ」
とて、つかぬものもおほかりけり。
続き