平家物語
祇王
かくて3年と申すに、又都に聞こえたる白拍子の上手一人出で来たり。加賀国の者なり。名をば仏とぞ申しける。年十六とぞ聞こえし。
「昔より多くの白拍子ありしが、かかる舞はいまだ見ず」
とて、京中の上下もてなす事なのめならず。仏御前申しけるは、
「我天下に聞こえたれども、当時さしもめでたう栄えさせたまふ平家太政の入道殿へ召されぬ事こそ本意なけれ。あそびもののならひ、なにかくるしかるべき、推参してみむ」
とて、ある時西八条へぞ参りたる。人参って、
「当時都に聞こえ候仏御前こそ参って候へ」
と申しければ、入道、
「なんでうさやうのあそびものは、人の召しに従ふてこそ参れ。左右なふ推参するやうある。その上、祇王があらん所へは、神ともいへ仏ともいへ、かなふまじきぞ。とふとふ罷(まか)り出でよ」
とぞの給ひける。
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