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蜻蛉日記原文全集「さて七八日許ありて初瀬へ出でたつ」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

さて七八日許ありて初瀬へ出でたつ

さて七八日許(ばかり)ありて、初瀬へ出でたつ。巳(み)のときばかり家を出づ。人いとおほく、きらきらしうてものすめり。

未(ひつじ)の時許(ときばかり)に、この按察使(あぜち)の大納言の領じ給ひし宇治の院にいたりたり。人はかくてののしれど、わが心ははづかにて見めぐらせば、あはれに、心にいれてつくろひ給ふとききしところぞかし、この月にこそは御はてはしつらめ、ほどなくあれにたるかなと思ふ。ここのあづかりしける者の、まうけをしたれば、立てたるもの、ここのなめりと見るもの、三稜草(みくり)すだれ、網代屏風(あじろびやうぶ)、黒柿(くろがい)の骨に朽葉(くちば)の帷子(かたびら)かけたる几丁どもも、いとつきづきしきも、あはれとのみ見ゆ。

こうじにたるに風ははらふやうに吹きて、頭さへいたきまであれば、風隠れつくりて見出だしたるに、くらくなりぬれば鵜舟(うぶね)どもかがり火さしともしつつ、ひと川さはぎたり。をかしく見ゆることかぎりなし。頭のいたさのまぎれぬれば、端の簾(す)まきあげて見出だして、あはれ、わが心とまうでしたび、かへさにあなたの院にてゆきかへりせし、ここなりけり、ここに按察使(あぜち)殿のおはして物などおこせ給ふめりしは、あはれにもありけるかな、いかなる世にさだにありけんと、思ひつづくれば、目もあはで夜中すぐるまでながむる。鵜舟(うぶね)どもの、のぼりくだりゆきちがふを見ては、

うへしたとこがるることをたづぬれば むねのほかにはうぶねなりけり

などおぼえて、なほ見れば、あかつきがたにはひきかへていさりといふ物をぞする。又なくをかしくあはれなり。


あけぬればいそぎたちてゆくに、にへのの池、泉川、はじめ見しには違(たが)はであるを見るも、あはれにのみおぼえたり。よろづにおぼゆることいとおほかれど、いと物さわがしくにぎははしきにまぎれつつあり。ようたての森に車とどめて、破籠(わりご)などものす。みな人の口むまげなり。春日へとて、宿院(すくいん)のいとむつかしげなるにとどまりぬ。



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・蜻蛉日記原文全集「さて七八日許ありて初瀬へ出でたつ」

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The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/
長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店

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