平家物語
二代后
大宮かくと聞こし召されけるより、御涙に沈ませおはします。
「先帝に後れ参らせにし久寿の秋のはじめ、同じ野原の露とも消え、家をも出で、世をものがれたりせば、今かかる憂き耳をば聞かざらまし」
とぞ、御嘆きありける。父の大臣こしらへ申させ給ひけるは、
「「世に従はざるをもって、狂人とす」
と見えたり。既に詔命を下さる。子細を申すにところなし。ただ速やかに参らせ給ふべきなり。もし王子御誕生ありて、君も国母(こくも)といはれ、愚老も外祖とあふがるべき瑞相にてもや候ふらむ。これひとへに愚老をたすけさせおはします、御孝行の御いたりなるべし」
と申させ給へども、御返事もなかりけり。大宮そのころ、なにとなき御手習ひのついででに
うきふしにしづみもやらでかは竹の 世にためしなき名をやながさん
世にはいかにしてもれけるやらむ、哀れにやさしきためしにぞ、人々皆申しあへりける。
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