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蜻蛉日記原文全集「かくながら廿余日になりぬる心ち」

著者名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

かくながら廿余日になりぬる心ち

かくながら廿余日になりぬる心ち、せん方しらずあやしくおきどころなきを、いかですずしき方もやあると、心ものべがてら浜づらの方にはらへもせんと思ひて、唐崎へとてものす。寅のときばかりに出で立つに、月いとあかし。我がおなじやうなる人、またともに人ひとりばかりぞあれば、ただ三人のりて、馬にのりたる男ども七八人ばかりぞある。加茂川のほどにて、ほのぼのと明く。うち過ぎて山路になりて京にたがひたるさまを見るにも、このごろの心ちなればにやあらん、いとあはれなり。いはんや関にいたりてしばし車とどめて牛かひなどするに、むな車ひきつづけてあやしき木こりおろして、いとを暗き中よりくるも、心ちひきかへたるやうにおぼえていとをかし。

関の山路、あはれあはれとおぼえて、ゆくさきを見やりたれば、ゆくへもしらず見えわたりて、鳥の二三ゐたると見ゆるものを、しひて思へば、つりぶねなるべし、そこにてぞ、え涙はとどめずなりぬる。いふかひなき心だにかく思へば、ましてこと人はあはれと泣くなり。はしたなきまでおぼゆれば、目も見合はせられず。行くさきおほかるに、大津のいとものむつかしき屋どもの中に引き入りにけり。それもめづらかなる心地して行きすぐれば、はるばると浜に出でぬ。来(き)し方を見やれば、うみづらにならびて集まりたる屋どものまへに、舟どもを岸にならべ寄せつつあるぞいとをかしき。漕ぎゆきちがふ船どももあり。          




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・蜻蛉日記原文全集「かくながら廿余日になりぬる心ち」

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長谷川 政春,伊藤 博,今西 裕一郎,吉岡 曠 1989年「新日本古典文学大系 土佐日記 蜻蛉日記 紫式部日記 更級日記」岩波書店
The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library http://etext.lib.virginia.edu/japanese/

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