蜻蛉日記
三月にもなりぬ
三月にもなりぬ。客人(まらうど)の御方にとおぼしかりける文を持てたがへたり。見れば、なほしもあらで、
「近きほどにまゐらんと思へど、「われならで」と思ふ人やはべらんとて」
などかいたり。年ごろ見給ひなれにたれば、かうもあるなめりと思ふに、猶もあらで、いとちひさく書いつく。
まつ山のさしこえてしもあらじよを われによそへてさわぐなみかな
とて、
「あの御方に持てまゐれ」
とて、かへしつ。見給ひてければ、すなはち御かへりあり。
まつしまの風にしたがふなみなれば よるかたにこそたちまさりけれ