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百人一首93『世の中は常にもがもな渚さこぐあまの小舟の綱手かなしも』現代語訳と解説(句切れ、本歌取りなど)
著作名: 走るメロス
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百人一首(93)鎌倉右大臣/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解、覚え方

世の中は 常にもがもな 渚さこぐ あまの小舟の 綱手かなしも


このテキストでは、百人一首に収録されている歌「世の中は つねにもがもな なぎさこぐ あまの小舟の 綱手かなしも」のわかりやすい現代語訳・口語訳と解説、歌が詠まれた背景や意味、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に、金槐和歌集にも収録されています。



百人一首とは

百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。百人一首と言われれば一般的にこの和歌集のことを指し、小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)とも呼ばれます。


暗記に役立つ百人一首一覧

以下のテキストでは、暗記に役立つよう、それぞれの歌に番号、詠み手、ひらがなでの読み方、そして現代語訳・口語訳を記載し、歌番号順に一覧にしています。

暗記に役立つ百人一首一覧


原文

世の中は (※1)つねに(※2)もがもな なぎさこぐ (※3)あまの小舟の 綱手(※4)かなし


ひらがなでの読み方

よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのおぶねの つなでかなしも



現代語訳

世の中は不変であってほしいものだなあ。渚を漕ぐ漁師が小舟の綱手を引く光景は、(今も昔も変わらずに)なんと心にしみることだろう。


解説・鑑賞のしかた

この歌の詠み手は、鎌倉幕府の3代将軍、源実朝(みなもと の さねとも)です。百人一首には鎌倉右大臣(かまくら の うだいじん)の名で選ばれています。

12歳で将軍職についた源実朝でしたが、実権は北条時政(祖父)、そして北条政子(母親)がにぎっていたと言われています。それに加え、北条氏のことをよくは思わない御家人たちの権力争いにまきこまれ、しまいには甥の公暁に暗殺されるという不遇な人生を送ります。そんな波乱万丈の人生の中で、不変な平和を望む気持ちがこの和歌には表れているような気がします。

将軍としての功績はほとんどありませんが、松尾芭蕉や正岡子規、斎藤茂吉など、源実朝の歌人としての功績を評価する文化人は少なくありません。


単語・文法解説

単語

(※1)つねに不変である、変わらずつづいている、永久なこと
(※2)もがもな願望の終助詞「もが」+詠嘆の終助詞「も」+詠嘆の終助詞「な」で、実現の難しそうなことへの願望を表す。ここでは「~であったらなあ」と訳す
(※3)あまここでは「漁師」を意味する
(※4)かなし「かなし」には「①愛し」と「②悲し/哀し」の用法があるが、ここでは「①愛し」



句切れ

二句切れ。


本歌取り

この歌は、以下の二本の歌をもとにしたものです。

河上の ゆつ岩群に 草生さず 常にもがもな 常処女にて

陸奥は いづくはあれど 塩釜の 裏漕ぐ舟の 綱手かなしも

すでにある歌をオマージュに新しい歌を詠む技法を本歌取りといいます。


品詞分解

※名詞は省略しています。



世の中
係助詞
つねにナリ活用の形容動詞「つねなり」の連用形
もがも願望の終助詞「もが」+詠嘆の終助詞「も」が一語化したもの
詠嘆の終助詞
なぎさ
こぐガ行四段活用「こぐ」の連体形
あま
格助詞
小舟
格助詞
綱手
かなしク活用の形容詞「かなし」の終止形
詠嘆の終助詞



著者情報:走るメロスはこんな人

学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。

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