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枕草子 原文全集「七月ばかりに/にげなきもの」
著作名: 古典愛好家
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七月ばかりに

七月ばかりに、風いたうふきて雨など騒がしき日、大かたいと涼しければ、扇もうちわすれたるに、汗の香すこしかかへたる綿衣(綿衣)のうすきを、いとよくひき着て昼寝したるこそ、をかしけれ。


にげなきもの

にげなきもの。下衆(げす)の家に雪の降りたる。また、月のさし入りたるもくちをし。月のあかきに屋形(やかた)なき車のあひたる。また、さる車にあめ牛かけたる。また、老いたる女の腹高くてありく。若き男もちたるだに見ぐるしきに、こと人のもとへいきたるとて腹立つよ。老いたる男の、寝まどひたる。また、さやうに鬚(にげ)がちなるもののしゐつみたる。歯もなき女の梅くひてすすがりたる。

下衆の、紅の袴着たる。このころはそれのみぞあめる。靫負(ゆげひ)の佐(すけ)の夜行すがた。狩衣(かりぎぬ)姿もいとあやしげなり。人に怖(お)ぢらるるうえの衣はおどろおどろし。たちさまよふも見つけであなづらはし。「嫌疑のものやある」と、とがむ。入り居てそらだき物に染みたる木丁にうちかけたる袴など、いみじうたづきなし。

かたちよき君達の、 弾正の弼(ひち)にておはする、いと見ぐるし。宮中将などの、さもくちをしかりしかな。




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