カザフスタン共和国
カザフスタン共和国(以下「カザフスタン」、英語ではRepublic of Kazakhstan)は、中央アジアに位置する共和制国家です。首都はアスタナです。
このテキストでは、カザフスタンの特徴を「国土」、「人口と人種」、「言語」、「主な産業」、「主な観光地」、「文化」、「スポーツ」、「日本との関係」の8つのカテゴリに分けて詳しく見ていき、同国の魅力や国際的な影響力について考えていきます。
1.国土:ユーラシア大陸の心臓部に広がる雄大な大地
カザフスタン共和国は、ユーラシア大陸のほぼ中央に位置する、世界で9番目に広大な国土を持つ内陸国です。その面積は約272万平方キロメートル(日本の約7倍)に及び、西はカスピ海から東はアルタイ山脈まで、北はロシア連邦、南はトルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギス、そして中国と国境を接しています。
この広大な国土の大部分を占めるのは、カザフステップと呼ばれる大草原地帯です。また、南部には天山山脈系の壮大な山々が連なり、西部には世界最大の湖であるカスピ海が広がります。さらには、チャリンキャニオンのような壮大な渓谷や、カインディ湖のような神秘的な湖、砂漠地帯など、変化に富んだ景観が特徴です。
気候は典型的な大陸性気候で、夏は暑く乾燥し、冬は長く厳しい寒さとなります。特に北部では気温がマイナス40度以下になることも珍しくなく、年間および一日の寒暖差が非常に大きいことが特徴です。
首都はアスタナ(2019年から2022年まではヌルスルタン)です。未来的なデザインの高層ビルが立ち並び、急速な発展を象徴する近代都市です。一方、旧首都であり国内最大の都市アルマトイは、南部の天山山脈の麓に位置し、文化・経済の中心地として栄えています。緑豊かな街並みと、周辺の美しい自然が魅力です。
さらに、カザフスタンの大地の下には、豊富な天然資源が眠っています。石油、天然ガス、ウラン(世界有数の生産・埋蔵量)、石炭、鉄鉱石、クロム、マンガン、亜鉛、銅、金など、多種多様な鉱物資源に恵まれており、これらが我が国の経済を支える重要な基盤となっています。
2.人口と人種:多様性が織りなす調和のとれた社会
カザフスタンの総人口は、約1,960万人(2023年 世界銀行推計)です。広大な国土に対して人口は少なく、人口密度は1平方キロメートルあたり約7人と、世界的に見ても低い水準にあります。
カザフスタンの最も大きな特徴の一つは、その多民族性です。憲法では、カザフスタンは統一された多民族国家であると謳われています。主要な民族はカザフ人(人口の約70.7%、2023年 カザフスタン統計局推計)ですが、その他にもロシア人(約15.2%)、ウズベク人、ウクライナ人、ウイグル人、タタール人、ドイツ人、韓国系(高麗人)など、130以上もの民族が共に暮らしています。これは、歴史的な経緯、特にソビエト連邦時代の民族移動政策などが背景にあります。
独立以来、政府は民族間の調和を国家の最重要課題の一つと位置づけ、「カザフスタン国民会議」などの仕組みを通じて、各民族の文化や言語の権利を保障し、相互理解と尊重に基づいた社会の構築に努めてきました。このような努力により、多様な民族が平和的に共存する、安定した社会が実現されています。
3.言語:カザフ語とロシア語が共存する環境
カザフスタン共和国の憲法によると、公用語はカザフ語です。カザフ語はチュルク諸語に属し、キリル文字を主に使用していますが、ラテン文字への段階的な移行も進められています。政府はカザフ語の普及と地位向上に力を入れています。
一方で、ロシア語も憲法において公用語として位置づけられており、行政機関や教育、ビジネス、そして民族間のコミュニケーションにおいて、依然として広く使用されています。特に都市部ではロシア語話者が多く、多くの国民がカザフ語とロシア語のバイリンガル、あるいはロシア語を主要なコミュニケーション手段としています。
このように、カザフスタンはカザフ語とロシア語が社会の様々な場面で共存する、特徴的な言語環境を持っています。近年は英語教育にも力が入れられており、若い世代を中心に英語能力も向上しています。
4.主な産業:資源大国から多角化へ
カザフスタン経済の基盤となっているのは、豊富な天然資源、特に石油と天然ガス、そしてウランなどの鉱物資源の開発・生産です。これらの輸出は、国の歳入とGDPの大きな部分を占めてきました。世界銀行によると、カザフスタンのGDPは2,367億米ドル(2023年)に達しています。
しかし、資源価格の変動リスクに対応し、持続的な経済成長を実現するため、政府は経済の多角化を積極的に推進しています。「カザフスタン2050戦略」などの国家戦略に基づき、製造業、農業、輸送・物流、通信、建設、観光などの非資源分野の育成に力を入れています。
農業も重要な産業であり、特に北部の広大な土地を利用した小麦生産は世界でも有数です。その他、綿花、畜産(羊、馬、牛など)も盛んです。
地理的な優位性を活かし、ヨーロッパとアジアを結ぶ輸送・物流ハブとしての役割も強化しています。中国が提唱する「一帯一路」構想においても、カザフスタンは重要な経由国として位置づけられています。
また、外国からの直接投資を積極的に誘致しており、投資環境の整備にも努めています。アスタナ国際金融センター(AIFC)の設立などもその一環です。
5.主な観光地:大自然の驚異と未来都市、シルクロードの遺産
カザフスタンは、まだ日本ではあまり知られていないかもしれませんが、旅行者を魅了する多様な観光資源に恵まれています。
■壮大な自然景観
■チャリンキャニオン
「中央アジアのグランドキャニオン」とも呼ばれる壮大な渓谷。風雨によって侵食された奇岩群が連なります。
■ビッグアルマトイ湖
アルマトイ近郊、天山山脈の中にある美しい高山湖。季節や天候によって湖水の色が変化します。
■カインディ湖
地震による地滑りで形成された湖。水中に沈んだトウヒの木々が立ち枯れ、幻想的な風景を作り出しています。
■アルティン・エメル国立公園
「歌う砂丘(Singing Dune)」や、太古の火山活動でできた色鮮やかなアクタウ山地など、ユニークな自然が見られます。
■カスピ海沿岸
西部に広がるカスピ海では、リゾート開発も進んでいます。
■魅力的な都市
■アスタナ
未来的なデザインの建築物が目を引く首都。バイテレックタワー、平和と調和の宮殿、ハーンシャティール(巨大なテント型商業施設)などが有名です。
■アルマトイ
緑豊かな旧首都。ゼンコフ教会(釘を一本も使わずに建てられた木造教会)、国立中央博物館、オペラハウスなどの文化施設や、周辺のスキーリゾートが人気です。
■歴史・文化遺産
■ホージャ・アフマド・ヤサヴィー廟
南部の都市トルキスタンにある、ユネスコ世界遺産。14世紀末にティムール朝によって建設された、中央アジアにおけるイスラム建築の傑作です。
■タムガリの岩絵群
アルマトイ近郊にあるユネスコ世界遺産。青銅器時代から中世にかけて描かれた数千点もの岩絵が残されており、当時の人々の生活や信仰を伝えています。
■シルクロード関連遺産群
カザフスタンは古代シルクロードの重要なルート上にあり、「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網」の一部として、複数の遺跡がユネスコ世界遺産に登録されています。
■宇宙開発
■バイコヌール宇宙基地
世界初にして最大級の宇宙基地。ソ連時代から人類初の人工衛星スプートニクや、ガガーリンによる有人宇宙飛行など、歴史的な打ち上げが行われてきました。現在もロシアによって租借され、国際宇宙ステーションへの打ち上げなどに利用されています。ツアーに参加すれば、打ち上げを見学できる可能性もあります。
6.文化:遊牧民の伝統と多文化共生の融合
カザフスタンの文化は、古来からの遊牧民の伝統と、シルクロードを通じて流入した多様な文化、そしてロシア・ソ連時代の影響などが融合して形成されています。
■遊牧民の伝統
カザフ人のアイデンティティの根幹には、遊牧生活の記憶が色濃く残っています。移動式住居「ユルタ(カザフ語ではキーズ・ウィ)」、馬術、鷹狩りなどはその象徴です。馬は単なる移動手段ではなく、生活に深く根差した存在であり、馬肉や馬乳(クムス)は伝統的な食文化の一部です。
■音楽と楽器
伝統楽器「ドンブラ」(2弦の撥弦楽器)の奏でる哀愁を帯びたメロディは、カザフの魂の音とも言われます。結婚式やお祭りなど、様々な場面で演奏され、人々に親しまれています。
■食文化
カザフスタンの代表的な料理といえば「ベシュバルマク」です。茹でた肉(主に馬肉や羊肉)と、平たい麺を大きな皿に盛り付け、皆で手づかみで食べるのが伝統的なスタイルです(「ベシュバルマク」は「5本の指」を意味します)。その他、揚げパンの「バウルサク」、発酵させた馬乳酒「クムス」、羊肉の串焼き「シャシリク」などもよく食べられます。
■宗教
国民の多くはイスラム教スンニ派を信仰していますが(約70%)、ロシア正教(約20%)など、他の宗教も信仰されています。憲法は信教の自由を保障しており、異なる宗教間の寛容性が保たれています。
[h3]祝祭: 最も重要な祝祭の一つが「ナウルズ(ノウルーズ)」です。これは春分の日(3月21日頃)に祝われる新年祭で、自然の再生と豊穣を願う、古くからの伝統行事です。各地で盛大なお祝いが行われ、伝統料理が振る舞われ、民族音楽の演奏や伝統スポーツの競技などが催されます。
7.スポーツ:格闘技から伝統競技まで
カザフスタン国民はスポーツへの関心が高く、様々な分野で国際的に活躍するアスリートを輩出しています。
■人気の近代スポーツ
特に人気が高いのは、ボクシング、レスリング(フリースタイル、グレコローマン)、重量挙げといった格闘技・重量挙げ系競技です。オリンピックなどの国際大会では、これらの種目で多くのメダルを獲得してきました。アイスホッケーも非常に人気があり、国内リーグも存在します。サッカーも国民的な人気スポーツです。
■伝統スポーツ
遊牧民文化に根差した伝統的なスポーツも盛んに行われています。
コクパル(ブズカシ): 馬に乗った騎馬隊が、ヤギの死骸(現在は模擬品も使用)を奪い合い、ゴールに入れる勇壮な競技です。
■カザフ・クレシ
カザフ民族伝統の相撲。立った状態から相手を投げ合うレスリング形式の競技で、国民的な人気があります。
■鷹狩り
古くから伝わる狩猟技術であり、スポーツとしても行われています。
アスタナやアルマトイには近代的なスポーツ施設も整備されており、国際的なスポーツイベントの開催も増えています。
8.日本との関係:戦略的パートナーシップの深化
カザフスタン共和国と日本は、1992年1月に外交関係を樹立して以来、良好な二国間関係を築いてきました。特に2016年には「拡大された戦略的パートナーシップ」へと関係が格上げされ、政治、経済、文化、人的交流など、幅広い分野で協力関係が深化しています。
■経済関係
日本にとってカザフスタンは、石油、天然ガス、ウランなどの重要な資源供給国であり、貿易関係も拡大しています。日本の企業は、カザフスタンの資源開発プロジェクトやインフラ整備事業などに参画しています。また、日本からの技術協力も、カザフスタンの産業多角化や人材育成に貢献しています。
■文化・人的交流
アルマトイとアスタナには「日本センター」が設置され、日本語教育や日本文化の紹介、ビジネス研修などを通じて、両国の相互理解を深める拠点となっています。また、大学間の学術交流や留学生の交換、地方自治体レベルでの姉妹都市交流も行われています。近年は、日本からカザフスタンへの観光客も徐々に増えています。
共通の課題への協力: 両国は、核兵器廃絶・不拡散という共通の目標を持っています。カザフスタンは、ソ連時代にセミパラチンスク核実験場があった経験から、独立後すぐに核兵器を放棄し、非核化を積極的に推進してきました。この分野における両国の協力は、国際社会からも高く評価されています。
このように、カザフスタンと日本は、互いを尊重し、共通の利益と価値観に基づいて、未来志向の協力関係を築いています。