『人虎伝』
ここでは中国の説話集「唐人説会」におさめられている『人虎伝』(傪覧之驚曰、君之才行〜)の書き下し文、現代語訳(口語訳)とその解説を行っています。中島敦の短編小説「山月記」はこの話を元に書かれていますが内容が違いますので注意してください。
白文(原文)
傪覧之驚曰、
「君之才行、我知之矣。
而君至於此、君平生得無有自恨乎。」
虎曰、
「二儀造物、固無親疎厚薄之間若。
其所遇之時、所遭之数、吾又不知也。
噫、顔子之不幸、冉有斯疾、尼父常深歎之矣。
若反求其所自恨、則吾亦有之矣。
不知定因此乎。
吾遇故人、則無所自匿也。
吾常記之。
於南陽郊外、嘗私一孀婦。
其家窃知之、常有害我心。
孀婦、由是不得再合。
吾因乗風縱火、一家数人尽焚殺之而去。
此為恨。」
書き下し文
傪之(これ)を覧(み)て驚きて曰はく、
「君の才行、我之を知れり。
而(しか)も君の此(ここ)に至れるは、君平生自ら恨むこと有る無きを得んや。」と。
虎曰はく、
「二儀の物を造るや、固(もと)より親疎厚薄の間無からん。
其の遇ふ所の時、遭ふ所の数のごときは、吾又知らざるなり。
噫、顔子の不幸、冉有(ぜんゆう)の斯(こ)の疾(やまい)、尼父(じほ)常(かつ)て深く之を歎(たん)ぜり。
若し其の自ら恨む所を反求せば、則ち吾も亦之有り。
定めて此に因(よ)るを知らざらん。
吾故人に遇へば、則ち自ら匿(かく)す所無きなり。
吾常之を記す。
南陽の郊外に於いて、嘗て一孀婦(いちそうふ)に私(わたくし)す。
其の家窃(ひそ)かに之を知り、常に我を害する心有り。
孀婦は、是に由(よ)りて再び合ふを得ず。
吾因りて風に乗じて火を縱(はな)ち、一家数人、尽(ことごと)く之を焚殺(ふんさつ)して去る。
此を恨みと為すのみ。」と。
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