三国志『天下三分之計』
ここでは三国志の中の『天下三分之計』(今操已擁百万之衆〜)の書き下し文、現代語訳(口語訳)とその解説を行っています。書籍によっては『水魚の交わり』と題するものもあるようです。
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『三往乃見(時先主屯新野〜)』書き下し文・現代語訳と解説
白文(原文)
「今操已擁百万之衆。
挟天子而令諸侯。
此誠不可与争鋒。
孫権拠有江東、已歴三世、国険而民附、賢能為之用。
此可以為援而不可図也。
荊州北拠漢沔、利尽南海、東連吳会、西通巴蜀。
此用武之国、而其主不能守。
此殆天所以資将軍。
将軍豈有意乎。
益州険塞、沃野千里、天府之土。
高祖因之以成帝業。
劉璋闇弱、張魯在北、民殷国富而不知存恤、智能之士思得明君。
将軍既帝室之冑、信義著於四海、総攬英雄、思賢如渴。
若跨有荊・益、保其巌阻、西和諸戎、南撫夷越、外結好孫権、内脩政理、天下有変、則命一上将、将荊州之軍以向宛洛、将軍身率益州之衆出於秦川、百姓孰敢不簞食壺漿以迎将軍者乎。
誠如是、則覇業可成、漢室可興矣。」
先主曰、
「善。」
於是与亮情好日密。
関羽・張飛等不悦。
先主解之曰、
「孤之有孔明猶魚之有水也。
願諸君勿復言。」
羽・飛乃止。
書き下し文
「今操已に百万の衆を擁し、天子を挟(さしはさ)みて諸侯に令す。
此れ誠に与(とも)に鋒を争ふべからず。
孫権江東を拠有し已に三世を歴(へ)、国険にして民附き、賢能之が用を為す。
此れ以て援と為すべくも、図るべからざるなり。
荊州は北漢、沔(べん)に拠り、利南海を尽くし、東吳、会に連なり、西巴、蜀に通ず。
此れ武を用ゐるの国にして、其の主守る能(あた)はず。
此れ殆(ほとん)ど天の将軍に資する所以(ゆえん)なり。
将軍豈に意有るか。
益州は険塞にして、沃野千里、天府の土なり。
高祖之に因り以て帝業を成せり。
劉璋(りゅうしょう)闇弱(あんじゃく)にして、張魯北に在り、民殷(おお)く国富むも存恤(そんじゅつ)を知らず、智能の士明君を得んことを思ふ。
将軍既に帝室の胄(ちゅう)にして、信義四海に著れ、英雄を総攬(そうらん)し、賢を思ふこと渇するがごとし。
若し荊・益を跨有(こゆう)し、其の巌阻(がんそ)を保ち、西諸戎と和し、南夷越を撫し、外好を孫権に結び、内政理を脩(おさ)め、天下に変有れば、則ち一上将に命じ、荊州の軍を将(ひき)ゐて以て宛、洛に向かはしめ、将軍身づから益州の衆を率ゐて秦川(しんせん)に出づれば、百姓孰(たれ)か敢へて簞食壺漿(たんしこしょう)して以て将軍を迎へざる者あらんや。
誠に是(か)くのごとくんば、則ち覇業なるべく、漢室興るべし。」
先主曰はく、
「善し。」と
是において亮と情好(じょうこう)日に密なり。
関羽・張飛ら悦ばず。
先主之を解して曰はく、
「孤の孔明有るは、猶ほ魚の水有るがごときなり。
願はくは諸君復た言う勿かれ。」 と。
羽・飛乃ち止む。
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