『嬰逆鱗・逆鱗にふる』原文・書き下し文・現代語訳と解説
このテキストでは
韓非子の一節『
嬰逆鱗・逆鱗にふる』の原文(白文)、書き下し文、現代語訳(口語訳)とその解説を記しています。
「逆鱗」とは、龍のあごの下にあるうろこのことです。龍は本来温厚な生物ですが、この逆鱗を触られると激昂して人を襲ったという伝説から、「触れてはいけないもの」を意味します。現在では「逆鱗にふる」は「目上の人に逆らって、激しい怒りをかう」という意味で使われています。
白文・書き下し文・現代語訳
夫龍之為蟲也、柔可狎而騎也。
夫(そ)れ竜の蟲たるや、柔にして狎(な)らして騎(の)るべきなり。
そもそも龍という生き物は、従順な正確で、飼いならしてのることができます。
然其喉下有逆鱗径尺。
然れども其の喉の下に逆鱗の径尺なる有り。
しかしその喉元には逆鱗という(逆さに生えた鱗で)長さが一尺ほどのものがあります。
若人有嬰之者、則必殺人。
若し人之に嬰(ふ)るる者有らば、則(すなわ)ち必ず人を殺す。
もしこれに触れる者がいたならば、(龍は)必ずその人を殺してしまいます。
人主亦有逆鱗。
人主も亦逆鱗有り。
君主にもまた逆鱗があります。
説者能無嬰人主之逆鱗、則幾矣。
説く者能(よ)く人主の逆鱗に嬰るること無くんば、則ち幾(ちか)し。
(君主に)説く者は、君主の逆鱗にふれないでいられるならば、(説得は)成功に近いといえるでしょう。
単語・文法解説
夫 | 「そもそも」と訳す |
蟲 | 「生物全般」を指す言葉 |
径尺 | 「径」は「長さ」を、「尺」は「一尺」を表し、「径尺」で「長さが一尺」と訳す |
若 | 「もし〜ば」と読み、「まし〜ならば」と仮定を表す |
則 | 「すなわち」と読み、ここでは「〜ならば」と訳す |
能 | 「能」は英語でいう「can」。「〜できる」と訳す |
著者情報:走るメロスはこんな人
学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。