平家物語
山門滅亡 堂衆合戦
さる程に、法皇は三井寺の公顕僧正を御師範として、真言の秘法を伝受せさせましましけるが、大日経、金剛頂経、蘇悉地経、この三部の秘法を受けさせ給ひて、九月四日の日、三井寺にて御潅頂あるべしとぞ聞こえける。山門の大衆憤り申し、
「昔より御潅頂御受戒、みな当山にして遂げさせまします事先規なり。就中山王の化導は、受戒潅頂の為なり。しかるを今三井寺にて遂げさせましまさば、寺を一向焼き払ふべし。」
とぞ申しける。法皇、これを無益なりとて、御加行を結願して、思し召し留らせ給ひぬ。さりながらもなほ本意なればとて、三井寺の公顕僧正を召し具して、天王寺へ御幸なつて、五智光院を建て、亀井の水を五瓶の智水として、仏法最初の霊地にてぞ、伝法潅頂は遂げさせましましける。
つづく