枕草子『古今の草子を』
このテキストでは、
清少納言が書いた
枕草子の一節『
古今の草子を』(古今の草子を御前に置かせ給ひて〜)の原文、現代語訳(口語訳)とその解説を記しています。タイトルが『古今の草子を』となっていますが、「
清涼殿のうしとらの隅の北のへだてなる御障子には〜」からなる段の一節です。
※清少納言は平安時代中期の作家・歌人です。一条天皇の皇后であった中宮定子に仕えました。そして枕草子は、兼好法師の『徒然草』、鴨長明の『方丈記』と並んで「古典日本三大随筆」と言われています。
原文(本文)
古今の草子を御前に置かせ給ひて、歌どもの
本を仰せられて、
「これが末、いかに。」
と問はせ給ふに、
すべて、夜昼心にかかりて
おぼゆるもあるが、
けぎよう申し出でられぬは、いかなるぞ。宰相の君ぞ十ばかり、それもおぼゆる
かは。
まいて、五つ六つなどは、ただおぼえぬよしをぞ
啓すべけれど、
「さやは、けにくく、仰事をはえなうもてなすべき。」
と、
わび、口をしがるもをかし。知ると申す人なきをば、やがてみな読みつづけて、夾算せさせ給ふを、
「これは、知りたる事ぞかし。などかく拙うはあるぞ。」
といひ嘆く。中にも、古今あまた書き写しなどする人は、皆もおぼえぬべきことぞかし。
つづく:
枕草子『古今の草子を(村上の御時に〜)』の現代語訳と解説
現代語訳(口語訳)
(中宮定子様は)古今和歌集をご自分の前にお置きになって、いろんな和歌の上の句をおっしゃって、
「この(上の句に続く)下の句は、何でしょうか。」
とお尋ねになられます。だいたい、昼夜を問わず頭の中にあって覚えているものもありますが、きれいさっぱりと(忘れて)申し上げることができないのはどうしたことでしょうか。宰相の君でも10首ばかりで(お答えになりましたが)、それでも覚えているといえるでしょうか、いやいえないでしょう。言うまでもなく5つ、6つ(しか答えられないの)は、ただ覚えていない旨を(中宮定子様に)申し上げるほうがよいのですが、
「そのように、そっけなく、(中宮定子様の)お言葉にさえなく返事をして、よいものでしょうか、いやできません。」
といって、(周りの女房たちが)困って、悔しがる様子はおもしろいです。(下の句を)知っていると申し上げる人がない和歌は、そのまま(中宮定子様が下の句まで)読み続けられて、しおりをおはさみになるのですが、
「この和歌は、知っていました。何でこうもうまく言えないのでしょう。」
といって(女房たちは)嘆いています。中でも、古今和歌集を数多く(何度も)書き写したことがある人は、すべて覚えていても当然のことなのですが。
つづく:
枕草子『古今の草子を(村上の御時に〜)』の現代語訳と解説
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