蜻蛉日記
そのころ、五月廿よ日ばかりより
そのころ、五月廿よ日ばかりより、四十五日の忌みたがへむとて、県(あがた)ありきのところにわたりたるに、宮、ただ垣をへだてたるところにわたり給ひてあるに、六月(みなづき)ばかりかけて、雨いたうふりたるに、たれもふり籠(こ)められたるなるべし、こなたには、あやしきところなれば、漏り濡るるさわぎをするに、かくの給へるぞいとどものくるほしき。
つれづれのながめのうちにそそぐらん ことのすぢこそをかしかりけれ
御かへり、
いづこにもながめのそそぐころなれば よにふる人はのどけからじを
又、のたまへり。
「のどけからじとか、
あめのしたさわぐころしもおほみづに たれもこひぢにぬれざらめやは」
御かへり、
よとともにかつみる人のこひぢをも ほすよあらじとおもひこそやれ
又、宮より、
しかもゐぬきみぞぬるらんつねにすむところにはまだこひぢだになし
「さもけしからぬ御さまかな」
などいひつつ、もろともに見る。