よろづのことよりも、情けあるこそ
よろづのことよりも、情けあるこそ、男はさらなり、女もめでたくおぼゆれ。なげのことばなれど、せちに心にふかく入らねど、いとほしきことをば
「いとほし」
とも、あはれなるをば
「げにいかに思ふらむ」
などいひけるを伝へて聞きたるは、さしむかひていふよりもうれし。いかでこの人に、思ひしりけりとも見えにしがなと、つねにこそおぼゆれ。
かならず思ふべき人、とふべき人は、さるべきことなれば、とりわかれしもせず。さもあるまじき人の、さしいらへをも、うしろやすくしたるは、うれしきわざなり。いとやすきことなれど、さらにえあらぬことぞかし。
おほかた、心よき人の、まことにかどなからぬは、男も女もありがたきことなめり。また、さる人おほかるべし。