はじめに
このテキストでは、
万葉集に収録されている歌「
東の野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ」の原文、現代語訳・口語訳と解説、そして品詞分解を記しています。
※万葉集は、奈良時代末期に成立したとみられる日本に現存する最古の和歌集です。平成の次の元号である「令和」(2019年5月1日〜)の由来となった『
梅花の歌三十二首并せて序』をはじめ、天皇や貴族、役人や農民など様々な身分の人々が詠んだ4500以上の歌が収録されています。
原文
東の 野に炎の 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ
ひらがなでの読み方
ひむがし(ひむかし)の のにかぎろひの たつみえて かへりみすれば つきかたぶきぬ
現代語訳
東方の野に日の出前の光が射し始めるのが見えて、後ろを振り返って(西の方角を)見てみると、月が傾いていた。
解説
この句は、
柿本人麻呂が詠んだ歌です。早朝、軽皇子に従って狩りに出かけるときの歌です。柿本人麻呂は飛鳥時代の歌人で、山部赤人とともに歌聖と呼ばれています。(※柿本人麻呂のみを歌聖とするなど諸説あり)
東は「ひむがし/ひむかし」と読みます。東の野に「炎」が立っているのが見えると詠んでいますが、この
「炎」とは「明け方に東方に射す光」のことです。「
東方の野に日の出前の光が射し始めている」、つまり、夜が明けるタイミングですね。
このタイミングで西の方角を見てみたら、月が傾いて沈もうとしていたよと続いているわけです。
品詞分解
※名詞は省略しています。
東 | ー |
の | 格助詞 |
野 | ー |
に | 格助詞 |
炎 | ー |
の | 格助詞 |
立つ | タ行四段活用「立つ」の連体形または終止形 |
見え | ヤ行下二段活用「見ゆ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
かへり見すれ | サ行変格活用「かへり見す」の已然形、または名詞「かへり見」+サ行変格活用「す」の已然形 |
ば | 接続助詞 |
月 | ー |
傾き | カ行四段活用「傾く」の連用形 |
ぬ | 完了の助動詞「ぬ」の終止形 |