『五経正義』とは
『五経正義』は、中国の唐代に編纂された儒教の経典注釈書であり、孔穎達を中心とした学者たちによって撰されたものです。この書物は、儒教の五経(『周易』『尚書』『毛詩』『礼記』『春秋左氏伝』)に対する注釈を集大成したものであり、唐の太宗の勅命により編纂されました。
背景と編纂の経緯
唐代の太宗は、儒教の経典に対する注釈を統一し、学問の標準を確立することを目指していました。これにより、南北朝時代における異なる注釈の伝統を統合し、国家としての学問の一貫性を保つことが求められました。孔穎達を中心とした学者たちは、『五経正義』の編纂を行いました。
内容と構成
『五経正義』は、以下の五つの経典に対する注釈を含んでいます:
周易正義:『周易』に対する注釈であり、王弼と韓康伯の注を基にしています。
尚書正義:『尚書』に対する注釈であり、偽孔安国の伝を基にしています。
毛詩正義:『毛詩』に対する注釈であり、毛亨と毛萇の伝を基にしています。
礼記正義:『礼記』に対する注釈であり、鄭玄の注を基にしています。
春秋正義:『春秋左氏伝』に対する注釈であり、杜預の注を基にしています。
編纂者とその役割
『五経正義』の編纂には、多くの学者が関与しました。孔穎達が中心となり、多くの学者らが協力しました。彼らは、それぞれの経典に対する注釈を精査し、統一的な解釈を提供するために尽力しました。
後世への影響
『五経正義』は、唐代の国家的な事業として編纂されたため、その影響は非常に大きいものでした。この書物は、科挙制度における標準的な教科書として使用され、多くの学者や官僚がこれを学びました。しかし、国家による解釈の統一は、学問の多様性を損なう一面もありました。宋代になると、『五経正義』は『十三経注疏』に収められ、さらに広く普及しました。
『五経正義』は、儒教の経典に対する注釈を統一し、学問の標準を確立するために編纂された重要な書物です。その編纂には多くの学者が関与し、国家的な事業として行われました。この書物は、後世の学問や教育に大きな影響を与えましたが、一方で学問の多様性を損なう一面もありました。それでもなお、『五経正義』は儒教の経典研究における重要な位置を占め続けています。