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平家物語原文全集「大納言死去 2」

著者名: 古典愛好家
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平家物語

大納言死去

信俊これをたまはつて、遥々と備前国有木の別所へ尋ね下る。先あづかりの武士、難波次郎経遠に、案内を云ひければ、心ざしの程を感じて、やがて見参に入れたりけり。大納言入道殿は、只今も都の事をのたまひ出だし、嘆き沈んでおはしけるところに、

「京より信俊が参つて候ふ。」


と申し入れたりければ、

「ゆめかや」


とて、聞きもあへず、おきなほり、

「これへこれへ」


と召されければ、信俊参つて見奉るに、まづ御住まひの心憂さもさる事にて、墨染の御袂を見奉るにぞ、信俊目もくれ、心も消えて覚えける。北方の仰せかうむりし次第、こまごまと申して、御文取り出だいて奉る。これを開けて見給へば、水茎の跡は涙にかきくれて、そこはかとは見えねども、

「をさなき人々のあまりに恋かなしみ給ふ有様、我が身も尽きせぬもの思ひに堪へ忍ぶべうもなし。」


なんど書かれたれば、

「日ごろの恋しさは、事の数ならず。」


とぞかなしみ給ふ。

つづき
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・平家物語原文全集「大納言死去 2」

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梶原正昭,山下宏明 1991年「新日本古典文学大系 44 平家物語 上」岩波書店

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