新規登録 ログイン

18_80 西アジア・地中海世界の形成 / ローマ帝国

『対比列伝』とは わかりやすい世界史用語1166

著者名: ピアソラ
Text_level_2
マイリストに追加
『対比列伝』とは

プルタルコスの『対比列伝』は、古代ギリシャ・ローマ世界の最も影響力のある著作の一つです。この作品は、著名なギリシャ人とローマ人の生涯を対にして記述し、彼らの道徳的な資質や欠点を比較検討することを目的としています。単なる歴史記録ではなく、倫理的な教訓を引き出すための伝記文学として構想されており、後世の西洋文学、史学、政治思想に計り知れない影響を与えました。

著者プルタルコスについて

『対比列伝』を理解するためには、まず著者であるプルタルコス自身の生涯と背景を知ることが不可欠です。

出自と教育: プルタルコスは、紀元後46年頃、ローマ帝国の属州アカエア(現在のギリシャ)のボイオーティア地方にあるカイロネイアという小さな町で、裕福で影響力のある家系に生まれました。彼はアテネで修辞学、物理学、そして特にプラトン哲学を中心とする哲学を学びました。この哲学への深い傾倒は、彼の著作全体、とりわけ『対比列伝』における人物評価の根幹をなしています。
ローマとの関わり: プルタルコスは、ローマ帝国の支配下にあるギリシャ人として生きました。彼は生涯を通じて故郷カイロネイアに深く根差していましたが、同時にローマ世界との接点も多く持ちました。公務や個人的な目的で何度かローマを訪れ、そこで有力者たちと交流しました。伝えられるところによれば、彼はトラヤヌス帝やハドリアヌス帝といった皇帝からも尊敬を集め、ローマ市民権を与えられ、ルキウス・メストリウス・プルタルコスというローマ名を名乗るようになりました。彼の著作がギリシャ人とローマ人を対等に扱っている背景には、このような彼自身の文化的・政治的な立ち位置が反映されています。彼は、ギリシャ文化の優位性を静かに主張しつつも、ローマの支配を受け入れ、両文化の調和と相互理解を促そうとしたと考えられます。
デルフォイの神官: プルタルコスは、その生涯の後半(少なくとも最後の30年間)において、デルフォイのアポロン神殿の神官という重要な役職を務めました。デルフォイはかつてギリシャ世界の宗教的中心地であり、彼の時代にはその影響力は低下していたものの、依然として重要な宗教的・文化的拠点でした。神官としての経験は、彼の宗教観や運命観、そして人間行動における神々の役割についての考察に影響を与えた可能性があります。『対比列伝』の中にも、神託、予兆、宗教的儀式に関する記述が散見されます。
著述家として: プルタルコスは非常に多作な著述家であり、『対比列伝』の他に、『モラリア』として知られる倫理学、哲学、宗教、文学、教育など多岐にわたる主題を扱ったエッセイや対話篇のコレクションも残しています。『モラリア』は、『対比列伝』を理解する上で重要な補助資料となります。なぜなら、『モラリア』で展開されている哲学的・倫理的な思想が、『対比列伝』における人物描写や評価の基準となっているからです。彼は自身を歴史家というよりは、道徳的な教訓を引き出す伝記作家と位置付けていました。



『対比列伝』の目的と方法論

プルタルコスが『対比列伝』を執筆した主な目的は、歴史的な出来事を網羅的に記録することではなく、著名な人物の生涯を通して、読者に道徳的な模範(あるいは反面教師)を示すことにありました。彼は『アレクサンドロス伝』の冒頭で、自らの意図を明確に述べています。「私は歴史を書いているのではなく、人生を書いているのである。そして、最も輝かしい行為の中に、必ずしも美徳や悪徳が示されるわけではない。むしろ、些細な事柄、言葉、冗談の方が、しばしば戦闘や大包囲戦よりも、人物の性格を明らかにする」。

倫理的・教訓的意図: プルタルコスの最大の関心事は、登場人物の「性格」(ethos)を描き出すことでした。彼は、個人の行動の背後にある動機、美徳(勇気、正義、節制、知恵など)、そして悪徳(野心、貪欲、傲慢、嫉妬など)を明らかにしようと努めました。読者がこれらの人物の成功と失敗から学び、自らの人生をより良く生きるための指針を得ることを期待していたのです。これは、古代ギリシャ・ローマの教育における伝記の伝統的な役割でもありました。偉人の生涯は、若者にとって実践的な倫理教育の教材とみなされていたのです。

伝記と歴史の区別: プルタルコスは、自身の著作を「歴史」ではなく「人生」または「生涯」(bios)と呼ぶことで、その焦点を明確にしました。歴史が戦争、政治、社会全体の大きな出来事を扱うのに対し、伝記は個人の性格形成、重要な決断、個人的な関係性、そしてその人物を特徴づける逸話に重きを置きます。そのため、彼はしばしば、一般的な歴史家が見過ごすような個人的なエピソードや逸話を積極的に取り入れました。これらの逸話は、歴史的な正確性が疑わしい場合もありますが、プルタルコスにとっては、人物の性格を浮き彫りにするための重要な要素でした。

比較の手法: 『対比列伝』の最大の特徴は、ギリシャ人とローマ人の生涯を対にして比較するという構成にあります。各ペアの後には、通常、両者の類似点と相違点を分析し、どちらが優れていたか、あるいはどのような点で異なっていたかを論じる短い比較論が付け加えられています(一部現存しないものもあります)。この比較は、単に優劣をつけるためだけではなく、異なる時代や文化背景を持つ二人の人物を通して、普遍的な人間の性格や道徳的課題を探求するための手法でした。例えば、伝説的な建国者であるテセウスとロムルスを比較することで、都市国家の起源における神話と現実、リーダーシップのあり方などを考察しています。また、偉大な軍事指導者であるアレクサンドロス大王とユリウス・カエサルを比較することで、野心、権力、運命といったテーマを掘り下げています。この比較の視点は、読者に対して、それぞれの人物をより深く、多角的に理解することを促します。

情報源の利用: プルタルコスは、膨大な量の先行文献に基づいて『対比列伝』を執筆しました。彼は歴史家(ヘロドトス、トゥキディデス、ポリュビオス、リウィウスなど)、哲学者、詩人、そして他の伝記作家の著作を参照しました。しかし、彼は常に情報源を批判的に吟味したわけではなく、時には矛盾する記述や信憑性の低い逸話もそのまま採用することがありました。彼の目的はあくまで人物の性格を描くことであり、厳密な歴史考証はその次であったためです。それでもなお、『対比列伝』は、多くの場合、失われてしまった古代の文献に関する貴重な情報を提供してくれる重要な史料となっています。

物語的構成: プルタルコスの伝記は、単なる事実の羅列ではなく、読者を引き込む物語として構成されています。彼は、人物の誕生や出自、教育、キャリアにおける重要な出来事、そしてしばしば劇的な最期といった、人生の重要な転換点に焦点を当てます。彼は、登場人物の演説(多くは彼自身が創作したものと考えられています)や劇的な場面描写を効果的に用いて、物語に活気を与え、登場人物の感情や動機を生き生きと伝えています。

『対比列伝』の構成

『対比列伝』は、現存する写本によって多少の差異はありますが、一般的には以下の構成要素から成り立っています。

対になった伝記: 作品の中核をなすのは、一人のギリシャ人と一人のローマ人を対にした伝記です。通常、ギリシャ人の伝記が先に置かれ、次にローマ人の伝記が続きます。現存する主なペアは以下の通りです(順番は写本により異なる場合があります):

テセウス(アテナイの伝説的王)とロムルス(ローマの建国者)
リュクルゴス(スパルタの伝説的立法者)とヌマ・ポンピリウス(ローマの第二代王、宗教制度の確立者)
ソロン(アテナイの立法者・詩人)とプブリコラ(共和政ローマ初期の執政官)
テミストクレス(アテナイの政治家・軍人、サラミスの海戦の英雄)とカミルス(共和政ローマの軍人・独裁官)
ペリクレス(アテナイの最盛期の指導者)とファビウス・マクシムス(共和政ローマの将軍、対ハンニバル戦での持久戦略で有名)
アルキビアデス(アテナイの政治家・軍人、波乱の生涯を送る)とコリオラヌス(共和政ローマ初期の将軍、祖国を裏切る)
ティモレオン(コリントスの将軍、シラクサの僭主を追放)とアエミリウス・パウルス(共和政ローマの将軍、マケドニアを征服)
ペロピダス(テーバイの将軍、エパメイノンダスと共にスパルタに対抗)とマルケルス(共和政ローマの将軍、第二次ポエニ戦争で活躍)
アリスティデス(アテナイの政治家、「正義の人」)と大カトー(共和政ローマの政治家・監察官、質実剛健で有名)
フィロポイメン(アカイア同盟の将軍、「最後のギリシャ人」)とフラミニヌス(共和政ローマの将軍、ギリシャ諸都市を「解放」)
ピュロス(エペイロス王、イタリア・シチリアに遠征)とマリウス(共和政ローマの軍人・政治家、軍制改革者)
リュサンドロス(スパルタの将軍、ペロポネソス戦争を終結させる)とスッラ(共和政ローマの将軍・独裁官、内乱の勝者)
キモン(アテナイの将軍・政治家、ペルシア戦争後の指導者)とルクルス(共和政ローマの将軍・政治家、美食家としても有名)
ニキアス(アテナイの将軍・政治家、シチリア遠征の悲劇的指導者)とクラッスス(共和政ローマの政治家・軍人、第一回三頭政治の一角、富豪)
エウメネス(アレクサンドロス大王の書記官、ディアドコイ戦争で活躍)とセルトリウス(共和政ローマの将軍、ヒスパニアで反乱)
アゲシラオス(スパルタ王、小アジア遠征)とポンペイウス(共和政ローマの将軍・政治家、第一回三頭政治の一角)
アレクサンドロス大王(マケドニア王、大帝国を建設)とユリウス・カエサル(共和政ローマ末期の将軍・政治家、帝政の基礎を築く)
フォキオン(アテナイの将軍・政治家、清廉で知られる)と小カトー(共和政ローマ末期の政治家、ストア派哲学者、カエサルの政敵)
アギス(スパルタ王、改革試みるも失敗)とクレオメネス(スパルタ王、改革試みるも失敗)およびティベリウス・グラックス(共和政ローマの護民官、農地改革)とガイウス・グラックス(共和政ローマの護民官、兄の改革を引き継ぐ)(この4人を2組のペアとして扱っている)
デモステネス(アテナイの雄弁家、反マケドニア派)とキケロ(共和政ローマの雄弁家・政治家・哲学者)
デメトリオス(マケドニア王、ディアドコイの一人、「ポリオルケテス(囲攻者)」)とマルクス・アントニウス(共和政ローマ末期の将軍・政治家、第二回三頭政治の一角)
ディオン(シラクサの政治家、プラトンの弟子)とブルトゥス(共和政ローマ末期の政治家、カエサル暗殺の中心人物)
比較: ほとんどのペアの後には、両者の生涯、性格、功績、運命などを比較検討する短いエッセイが置かれています。ここでプルタルコスは、両者の類似点や相違点を指摘し、どちらがどのような点で優れていたか、あるいはどのような共通の欠点を持っていたかなどを論じます。この比較は、しばしば微妙な道徳的判断を含んでおり、読者に考察を促します。

単独の伝記: 上記の対になった伝記とは別に、以下の4人の単独の伝記も含まれています。これらは比較対象となる人物が見つからなかったか、あるいは比較が意図されていなかったと考えられます。

アルタクセルクセス2世(アケメネス朝ペルシアの王)
アラトス(アカイア同盟の指導者)
ガルバ(ローマ皇帝)
オト(ローマ皇帝)
(失われた伝記も存在した可能性が指摘されている)

主要なペアの分析例


『対比列伝』の豊かさを理解するために、いくつかの代表的なペアについて、プルタルコスがどのように人物を描き、比較しているかを見てみましょう。

テセウスとロムルス (Theseus & Romulus):

概要: ギリシャとローマのそれぞれの建国神話における中心人物。テセウスはアテナイの統一者であり、ミノタウロス退治などの英雄的功業で知られます。ロムルスは双子の兄弟レムスと共に狼に育てられ、後にローマを建国したとされます。
プルタルコスの描写: プルタルコスは、両者の生涯にまつわる神話や伝説を詳しく紹介しつつも、それらを歴史的事実としてではなく、彼らの性格や後世への影響を示すものとして扱います。テセウスについては、勇気、知性、そしてアテナイを統一し民主制の基礎を築いた政治的手腕を評価しますが、女性関係のだらしなさや晩年の判断ミス(ヘレネ誘拐など)といった欠点も指摘します。ロムルスについては、建国の偉業、軍事指導者としての能力、ローマの基礎制度確立を称賛する一方で、兄弟レムスの殺害、サビニの女たちの略奪といった暴力性や、晩年の独裁的な振る舞いに対する批判も描かれています。
比較: プルタルコスは、両者が無から偉大な都市を築き上げた点を共通の功績として挙げます。しかし、動機においては、テセウスが既存の悪(ミノタウロスなど)を排除したのに対し、ロムルスは自らの野心のために兄弟殺しという罪を犯した点で劣るとします。また、テセウスが市民による統治の基礎を築いたのに対し、ロムルスは王として君臨し、最後は元老院議員に殺害された(という説を紹介)点を対比させ、テセウスの政治的遺産をより高く評価する傾向が見られます。ただし、ロムルスが極めて低い出自から身を起こしたのに対し、テセウスは王族の血を引いていた点も考慮に入れています。全体として、神話的人物でありながらも、その行動を通してリーダーシップ、正義、野心といった普遍的なテーマを考察しています。

アレクサンドロス大王とユリウス・カエサル:

概要: 古代世界で最も有名な二人の軍事指導者であり、征服者。アレクサンドロスは若くしてマケドニアから東方へ大遠征を行い、ペルシア帝国を滅ぼして巨大な帝国を築きました。カエサルはガリア戦争での勝利を経てローマ内乱を勝ち抜き、共和政ローマの最高権力者となりました。
プルタルコスの描写: プルタルコスは、両者の並外れた軍事的才能、カリスマ性、そして限りない野心を描き出します。アレクサンドロスについては、若き日のアリストテレスによる教育、父フィリッポスへの対抗心、驚異的な速度での征服、兵士からの敬愛、異文化への寛容さ(ペルシアの習慣を取り入れるなど)といった側面を強調します。しかし同時に、成功に伴う傲慢さ(神格化の要求など)、友人への猜疑心(クリトス殺害など)、そして過度の飲酒といった欠点も容赦なく描きます。カエサルについては、政治家としてのキャリア形成、ガリアでの軍事的成功、ルビコン渡河という運命的決断、クレオパトラとの関係、そして終身独裁官就任から暗殺に至るまでを詳述します。カエサルの寛容さ(政敵を許すなど)や兵士に対する配慮も描かれますが、その野心がローマの共和政を破壊したという側面も示唆されます。
比較 (Synkrisis): プルタルコスは、両者の軍事的偉業と帝国の規模を比較し、アレクサンドロスがより若くして、より広大な領域を征服したことを指摘します。また、アレクサンドロスが正当な王位継承者として出発したのに対し、カエサルは一市民から身を起こし、多くの政敵と戦いながら権力の頂点に上り詰めた点を対比します。野心という点では両者は共通していますが、プルタルコスはアレクサンドロスの野心をより若々しく情熱的なものとして、カエサルの野心をより計算高く政治的なものとして描いているように見えます。欠点については、アレクサンドロスの激情や飲酒、カエサルの飽くなき権力欲が対比されます。プルタルコスは明確な優劣をつけることを避けつつも、読者に両者の偉大さと、それがもたらした悲劇的な側面について深く考えさせます。このペアは、権力、野心、運命、そして偉人の持つ光と影というテーマを探求する上で、特に重要なものとなっています。

デモステネスとキケロ:

概要: 古代ギリシャとローマを代表する最高の雄弁家であり、政治家。デモステネスは、マケドニアのフィリッポス2世やアレクサンドロス大王の脅威に対してアテナイの自由と独立を守るために弁舌を振るいました。キケロは、共和政ローマ末期の混乱期にあって、カティリナの陰謀を弾劾し、「国父」と呼ばれるなど、弁論と著作を通じて国家に貢献しようとしました。
プルタルコスの描写: プルタルコスは、両者が雄弁術を習得するために払った並々ならぬ努力(デモステネスの発声練習、キケロの広範な学習)を描写します。デモステネスについては、その愛国心、マケドニアに対する断固たる姿勢、そして力強い弁論スタイルを称賛しますが、一方で、賄賂を受け取ったという疑惑や、カイロネイアの戦いでの敗走といった不名誉なエピソードも記しています。キケロについては、その卓越した知性、弁論の多様性、哲学的な素養、そして共和政への献身を高く評価します。しかし、彼の虚栄心の強さ、政治的な状況判断の甘さ、そして亡命やアントニウスとの対立における苦悩も描かれています。

比較: プルタルコスは、両者が弁論という武器を用いて国家に貢献しようとした点で共通していると述べます。彼は、デモステネスの弁論をより簡潔で力強く、目的に集中したものとして、キケロの弁論をより豊かで変化に富み、知的な装飾が施されたものとして比較します。性格については、デモステネスをより厳格で真摯な人物として、キケロをより機知に富むが、やや自己顕示欲が強い人物として描く傾向があります。両者ともに政治的な困難に直面し、悲劇的な最期を遂げた点(デモステネスは服毒自殺、キケロはアントニウスの刺客により殺害)も共通項として挙げられます。プルタルコスは、どちらの雄弁家が優れているかという問いに対しては、明確な答えを出しませんが、両者の弁論がそれぞれの時代の危機において重要な役割を果たしたことを強調します。このペアは、言葉の力、政治における雄弁術の役割、そして理想と現実の間で苦悩する知識人の姿を描き出しています。

哲学的・文化的背景

『対比列伝』は、単なる伝記集ではなく、プルタルコスの哲学的・文化的な思想が色濃く反映された作品です。

中期プラトン主義: プルタルコスは、中期プラトン主義者として知られています。これは、プラトンの教えを継承しつつ、アリストテレスやストア派などの他の哲学派の要素も取り入れた、折衷的な哲学体系です。彼の著作には、以下のようなプラトン主義的なテーマが見られます。
魂の不滅と輪廻: 人間の魂は不滅であり、死後も存在し続けるという考え。
理性と情念: 理性が情念を支配し、魂の調和を保つことの重要性。徳は理性が情念を適切に導くことによって達成されると考えられました。
神(あるいは一者)と善のイデア: 宇宙の背後にある究極的な実在としての神、そして最高の価値としての善のイデアへの志向。
模倣: 現実世界はイデア界の不完全な模倣であるという考え。これは、プルタルコスが歴史上の人物を、理想的な徳(あるいは悪徳)の「模倣」として描こうとした姿勢にも通じます。
運命と自由意志: 人間の運命はある程度定められている(神の摂理や運命)と考えつつも、個人の選択と努力によって徳を追求する自由意志も認める立場。
倫理観: プルタルコスの倫理観は、プラトン主義に加え、アリストテレス的な「中庸」の徳、すなわち過剰と不足の両極端を避けることの重要性も反映しています。彼は、登場人物の行動を、勇気、正義、節制、知恵といった古典的な徳の基準に照らして評価します。また、公的な義務の遂行、友人や家族に対する誠実さ、神々への敬虔さなども重視されました。
ギリシャとローマの文化: プルタルコスが生きた時代は、ローマ帝国による支配が確立し、ギリシャ文化とローマ文化が融合しつつあった時代です。『対比列伝』においてギリシャ人とローマ人を対等に比較するという構成自体が、この文化的状況を反映しています。彼は、ギリシャ文化の偉大さをローマ人に示すと同時に、ローマ人の実務的な能力や政治・軍事における功績をギリシャ人に伝え、両文化間の相互理解と尊敬を促進しようとしたと考えられます。彼は、両文化の優れた点を認めつつ、普遍的な人間の徳を探求しました。

プルタルコスの『対比列伝』は、単なる古代の伝記集を超えた、西洋文化の根幹を形成する上で不可欠な役割を果たしてきた記念碑的著作です。その主な目的は、歴史上の偉人たちの生涯を通して、読者に道徳的な洞察と倫理的な指針を与えることにありました。ギリシャ人とローマ人を対比させるという独創的な構成、個人の性格に焦点を当てた描写、そして豊かな逸話と物語性によって、プルタルコスはアレクサンドロス、カエサル、キケロといった人物像を生き生きと描き出し、後世に伝えました。

彼の著作は、歴史的な正確性には限界があるものの、失われた古代の情報を伝え、当時の倫理観や価値観を知る上で非常に貴重な資料です。
Tunagari_title
・『対比列伝』とは わかりやすい世界史用語1166

Related_title
もっと見る 

Keyword_title

Reference_title
『世界史B 用語集』 山川出版社

この科目でよく読まれている関連書籍

このテキストを評価してください。

※テキストの内容に関しては、ご自身の責任のもとご判断頂きますようお願い致します。

 

テキストの詳細
 閲覧数 692 pt 
 役に立った数 0 pt 
 う〜ん数 0 pt 
 マイリスト数 0 pt 

知りたいことを検索!

まとめ
このテキストのまとめは存在しません。