エウリピデスとは
古代ギリシアの演劇界を代表する三大悲劇詩人の一角を占めるエウリピデス(紀元前485年頃 - 紀元前406年頃)は、アイスキュロス、ソフォクレスと並び称される巨匠です。サラミス島に生まれ、アテナイを舞台に活動した彼は、90編を超える戯曲を世に送り出しましたが、今日完全な形で残っているのは18作品にとどまっています。
現存する彼の主要作品としては、『メデイア』『アンドロマケ』『ヒッポリュトス』『バッコスの信女』『トロイアの女』『エレクトラ』『オレステス』などが挙げられます。これらはいずれもギリシア悲劇の精粋として高い評価を受け、優れた劇作術と深い人間理解を示す傑作とされています。
先人たちの伝統を踏まえながらも、エウリピデスは独自の演劇改革を推し進めました。舞台上の俳優数を増やし、より緻密な対話を展開することで、従来のコロス(合唱隊)の比重は低下し、個々の登場人物の心理表現が一層豊かになりました。さらに、舞台美術や衣装の革新によって、視覚的表現も追求しました。
彼の作品群は、神々と人類の関係性、宿命と自由、正義と報復といったテーマを深く追究しています。代表作『メデイア』は、背信に遭遇した妻の復讐劇として知られ、主人公が夫イアソンへの怒りから、その新妻と義父、さらには実の子までも殺害する衝撃的な結末へと至ります。
公共の場でも活動的だったエウリピデスは、紀元前455年にディオニュシア祭での初演を実現し、以後も精力的に作品を発表し続けました。彼の戯曲には当時の社会情勢が色濃く投影され、特にペロポネソス戦争の影響が顕著に表れています。
彼の芸術は、同時代の劇作家や後世の文学者たちに絶大な影響を及ぼしました。
ギリシア演劇の発展に対するエウリピデスの斬新な演出手法と深い思索は、後世の劇作家たちに大きな影響を与えました。