現代語訳(口語訳)
「最初、私は宿の中で、病気のために発狂し、荒れ果てた山の中に入って行きました。
すると従者は私の馬に乗って、衣囊を持って逃げ去ってしまったのです。
私の妻子はいまも虢略(地名)にいます。
(妻子は)どうして私が異類のものとなったことを知っているでしょうか、いや知らないでしょう。
君が南から戻ったら、手紙を持って行って、私の妻子を訪ね、ただ私はすでに死んだと伝え、今日のことは言わないでおいてくれませんか。
どうか忘れないで頂きたい。」と。
(続けて)言いました。
「私は人間の世界にいたとき、何も財産はありませんでした。
子供がいるものの幼いので、(その子が)自分で将来のことを考えるのは難しいでしょう。
君は位の高い官職につき、日頃の行いを心がけています。
昔のよしみで、どうして他の人間が(君の)右に出ることがありましょうか。
(私の子が)幼くして身寄りがないことをどうか考えてください。
時々この子の面倒をみてやって、道端で飢え死にせずにしないようにして頂けたなら、これも大きな恩を持っていらっしゃるというものです。」
(そう)言い終わると、(李徴は)また悲しそうに泣きました。
袁傪もまた泣きながら言いました。
「私と貴殿は喜びや悲しみを共にした仲です。
それであるならば貴殿の子は私の子であると言えましょう。
当然、努めて(貴殿の)頼みに応えられるようにしましょう。
どうして(私の対応が)不十分であると心配する必要がありましょうか、いやありません。」と。
単語・文法解説
| 逆旅 | ここでは宿屋の意味 |
| 衣囊 | 衣服を入れる袋 |
| 妻孥 | 妻と子 |
| 豈〜乎 | 「豈A乎」で「豈にA(せん)や」と読み、反語を表す |
| 孤弱 | 幼くて身寄りがないこと |
| 賑恤 | 身寄りがない等の社会的弱者に対して食糧等をほどこすこと |
| 足下 | 貴殿 |
| 休戚 | 喜びや悲しみ |
| 当〜 | 「当」は再読文字。「当A」で「まさに〜(す)べし」と読み、「当然〜すべきだ」と訳す |
| 何虞其不至哉 | 「何〜哉」で「なんぞ〜(せ)んや」と読み反語を表す |