ある女房の
ある女房の、遠江(とをたあふみ)の子なる人を語らひてあるが、おなじ宮人をなむ、しのびて語らふとききて、うらみければ、
「親などもかけて誓はせ給へ。いみじきそらごとなり。夢にだに見ず」
となむいふは、いかがいふべき、といひしに、
誓へきみ遠江の神かけて むげに浜名の橋みざりきや
びんなき所にて
びんなき所にて、人にものをいひける、胸のいみじう走りけるを、
「などかくある」
といひける人に、
逢坂は胸のみつねに走井の 見つくる人やあらむと思へば
まとこにや、やがては下る
「まとこにや、やがては下る」
といひたる人に、
思ひだにかからぬ山のさせも草 誰かいぶきのさとはつげしぞ