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平家物語原文全集「西光被斬 5」
著作名: 古典愛好家
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平家物語

西光被斬

西光法師この事聞いて、我が身のうへとや思ひけん、鞭をあげ、院の御所法住寺殿へ馳せ参る。平家の侍共、道にて馳せむかひ、

「西八条へ召さるるぞ。きっと参れ」


と言ひければ、

「奏すべき事あって、法住寺殿へ参る。やがてこそ参らめ」


と言ひけれ共、

「憎い入道かな。何事をか奏すべかんなる。さな言はせそ」


とて、馬よりとって引き落し、ちうにくくって、西八条へさげて参る。日の始めより根元与力の者なりければ、殊につよういましめて、壺の内にぞひっすへたる。入道相国大床に立って、

「入道かたぶけうどするやつがなれる姿よ。しやつここへ引き寄せよ」


とて、縁の際に引き寄せさせ、物はきながら、しゃっつらをむずむずとぞ踏まれける。

「もとよりおのれらがやうなる下臈のはてを、君の召しつかはせ給ひて、なさるまじき官職をなしたび、父子共に過分のふるまひをすると見しにあはせて、あやまたぬ天台の座主流罪に申しおこなひ、天下の大事ひき出いて、剰へこの一門ほろぼすべき謀反にくみしてんげつやつなり。ありのままに申せ」


とこそのたまひけれ。

つづき


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