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平家物語原文全集「西光被斬 6」 |
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著作名:
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西光もとよりすぐれたる大剛の者なりければ、ちっとも色も変ぜず、わろびれたる気色もなし。居直りあざわらって申しけるは、
「さもさうず。入道殿こそ過分の事をばのたまへ。他人の前は知らず、西光が聞かんところに、さやうの事をば、得こそのたまふまじけれ。院中に召しつかはるる身なれば、執事の別当成親卿の院宣とて催されし事にくみせずとは申すべきやうなし。それはくみしたり。ただ耳にとどまる事をものたまふものかな。御辺は、故刑部卿忠盛の子でおはせしかども、十四五までは出仕もし給はず。故中御門藤中納言家成卿の辺に立ち入り給ひしをば、京童部は高平太とこそ言ひしか。保延の比(ころ)、大将軍承り、海賊の張本丗余人からめ進ぜられし勧賞に四品して四位の兵衛佐と申ししをだに、過分とこそ時の人々は申しあはれしか。殿上のまじはりをだに嫌われし人の子で、太政大臣まで成りあがったるや過分なるらむ。侍品の者の受領・検非違使になる事、先例・傍例なきにあらず。なじかは過分なるべき」
とはばかるところもなう申しければ、入道あまりにいかって物ものたまはず。しばしあって、
「しやつが首、左右(さう)なう斬るな。よくよくいましめよ」
とぞのたまひける。松浦太郎重俊承って、足手をはさみ、様々にして痛め問ふ。もとよりあらがひ申さぬうへ、糾問は厳しかりけり、残りなうこそ申しけれ。白状四五枚に記せられ、やがて、
「しやつが口を裂け」
とて、口を裂かれ、五条西朱雀にして斬られにけり。嫡子前加賀守師高、尾張の井戸田へ流されたりけるを、同国の住人小胡麻郡司維季に仰せて討たれぬ。次男近藤判官師経禁獄せられたりけるを、獄より引き出され、六条河原にて誅せらる。その弟左衛門尉師平、郎等三人、同じく首をはねられけり。これらは言ふかひなきものの秀で、いろふまじき事にいろひ、あやまたぬ天台座主流罪に申しおこなひ、果報や尽きにけん、山王大師の神罰・冥罰を立ち所にかうぶって、かかる憂き目にあへりけり。
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