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枕草子 原文全集「一条の院をば今内裏とぞいふ」 |
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著作名:
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一条の院をば今内裏とぞいふ。おはします殿(でん)は清涼殿にて、その北なる殿におはします。西東は渡殿にて、わたらせ給ひまうのぼらせ給ふみちにて、まへは壺なれば、前裁(せんざい)うゑ、籬(ませ)結ひていとをかし。
二月二十日ばかりの、うらうらとのどかに照りたるに、渡殿の西の廂(ひさし)にて、上の御笛吹かせ給ふ。高遠の兵部卿、御笛の師にてものし給ふを、御笛二つして高砂ををりかへして吹かせ給ふは、なほいみじうめでたしといふも世の常なり。御笛のことどもなど奏し給ふ、いとめでたし。御簾のもとに集まり出でて、見たてまつる折は、
「芹(せり)摘みし」
などおぼゆることこそなけれ。
輔尹(すけただ)は、木工允(もくぜう)にてぞ蔵人にはなりたる。いみじくあらあらしくうたてあれば、殿上人、女房、
「あらはこそ」
とつけたるを、歌につくりて、
「左右(さう)なしの主、尾張人の種にぞありける」
と歌ふは、尾張の兼時がむすめの腹なりけり。これを御笛にふかせ給ふを、そひにさぶらひて、
「なほ高くふかせおはしませ。え聞きさぶらはじ」
と申せば、
「いかが。さりとも、聞きしりなむ」
とて、みそかにのみふかせ給ふに、あなたよりわたりおはしまして、
「かのものなかりけり。ただ今こそふかめ」
と仰せられてふかせ給ふは、いみじうめでたし。
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