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沙石集『花盗人の歌』(家隆卿の子息の禅師隆尊といひし人~)わかりやすい現代語訳と解説 |
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著作名:
走るメロス
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このテキストでは、沙石集の一節「花盗人の歌」のわかりやすい現代語訳・口語訳とその解説を記しています。
沙石集は、鎌倉時代中期に無住(むじゅう)によって書かれた仏教説話集です。
家隆卿の子息の禅師隆尊といひし人、坂東ここかしこ修行しけるが、ある所の地頭の家の前栽の桜の花を、 一枝折りて逃げけるを、主見つけて
「あの法師捕へよ。盗人にこそ。」
とて、ことごとしく ののしりければ、冠者ばら追はへて搦(から)めてけり。禅師、不祥にあひてせんかたなかりければ、
「殿に、かく申し給へ。」
とて、
白波の名をば立つとも吉野川花ゆゑ沈む身をば恨みじ
使者、しかしかと言へば、
「縄をばなつけそ。ただ具して来たれ。」
とて、さまざまにもてなしかしづきて、歌なんど学問しけるとぞ。
藤原家隆の息子で隆尊というお坊さんがいて、彼は坂東(関東地方)のあちらこちらで修行をしていました。この隆尊、とある土地で、地頭の家の庭先にあった桜の花を一枝折って逃げたのですが、逃げた隆尊を家の主が見つけて、
「あの坊主を捕らえろ!泥棒だ」
と大げさに騒いだので、その家の召使たちが追いかけて捕まえてしまいました。隆尊は、まずいことになってしまい、なすべき方法もなかったので、
「旦那さんにこのように伝えてください。」
と言って(歌を詠みました。)
白波のたつ吉野川の花が美しいので、おぼれてしまっても恨みはしません
(※白波は盗賊や泥棒を指す言葉で、ここでは川にたつ白波と泥棒という意味の白波をかけています。「白波と(泥棒)いう評判がたってしまっても、花が美しくてやったことなので恨みはしません」と言いたかったのでしょう。)
使いの者はこのことを家の主に伝えると
「そのお方を縄でしばるな。ただつれて来い」
と言って、(隆尊を)いろいろともてなして大切に扱い、歌などの学問を隆尊から教えてもらったということです。
ここかしこ | あちらこちら |
ことごとし | 大げさに |
ののしる | 大騒ぎをする |
冠者ばら | 召使たち。「ばら」は「~たち」 |
不祥 | 不運なこと・まずいこと |
せんかたなかりけり | 「せんかた」は「なすべき方法」、「なかり」は形容詞「なし」の連用形、「けり」は過去の助動詞「けり」 |
な~そ | 副詞「な」に終助詞「そ」がくっついて、比較的弱い禁止を表す |
かしづく | 大切にもてなす |
・沙石集『歌ゆえに命を失ふ事』
・沙石集『いみじき成敗/正直の徳』
・沙石集『ねずみの婿とり』
・沙石集『三文にて歯二つ』
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