タキトゥスとは
タキトゥスは、古代ローマの歴史家であり、また帝政ローマ期の政治家でもありました。彼の著作はローマ帝国の歴史を理解する上で非常に重要な資料となっています。
タキトゥスの生涯
タキトゥスは紀元55年頃に生まれ、紀元120年頃に亡くなったとされています。彼の出生地や具体的な名前については不明な点が多く、プブリウスまたはガイウスという名が伝わっていますが、確定されていません。タキトゥスは騎士階級の家系に生まれ、裕福な環境で育ちました。ローマで教育を受け、修辞学や弁論術を学びました。
政治家としても活動し、紀元97年には補充執政官に任命されました。また、ブリタンニア総督アグリコラの娘と結婚し、アグリコラの伝記も執筆しています。タキトゥスの政治的キャリアは、フラウィウス朝およびトラヤヌス帝の治世の下で進展し、彼の著作はこの時代のローマ帝国の政治的・社会的状況を反映しています。
主要な作品
タキトゥスの代表的な著作には、『アグリコラ』、『ゲルマニア』、『雄弁家についての対話』、『同時代史』、『年代記』があります。
アグリコラ
『アグリコラ』は、タキトゥスの岳父であるグナエウス・ユリウス・アグリコラの伝記で、彼のブリタンニア総督としての業績を記録しています。この作品では、アグリコラの軍事的成功や統治の手腕を称賛し、彼の人格と徳を強調しています。
ゲルマニア
『ゲルマニア』は、ゲルマン民族とその文化、風習、地理についての民族誌です。タキトゥスはゲルマン人の素朴で純粋な生活を描き、ローマの腐敗と対比させています。この作品は、ゲルマン民族に関する貴重な情報源として評価されています。
雄弁家についての対話
『雄弁家についての対話』は、対話形式で書かれた作品で、共和政と帝政の弁論スタイルの違いや雄弁の価値について論じています。この作品は、タキトゥスの修辞学に対する深い理解を示しています。
同時代史
『同時代史』は全12巻から成り立つ歴史書で、69年から96年までのローマ帝国の歴史を扱っています。この作品は、四皇帝の年(69年)からドミティアヌス帝の暗殺(96年)までの出来事を記録しており、特に四皇帝の内乱やユダヤ戦争について詳述しています。しかし、現存しているのは最初の4巻のみであり、第5巻以降は断片的にしか残っていません。
年代記
『年代記』は全18巻から成り立つ歴史書で、ティベリウス帝の即位からネロ帝の自殺までのローマ帝国の歴史を扱っています。この作品は、ティベリウス、クラウディウス、ネロの治世を詳細に記録しており、ローマ帝国の政治的・社会的状況を描いていますが、全体の約三分の一が欠落しており、特にセイヤヌスの失脚やクラウディウス帝の即位などの重要な部分が失われています。
タキトゥスの影響
タキトゥスの作品は生前から高く評価され、彼の死後も長い間読み継がれました。特に『年代記』と『同時代史』は、古代ローマの歴史を理解するための重要な資料として広く利用されました。
中世ヨーロッパにおいても、タキトゥスの作品は広く読まれ、学者や歴史家たちに影響を与えました。