天とは
天とは、古代中国の至高の存在のことで、殷の時代には超越した存在として上帝とされていたものを周がそれにかわるものとして強調しました。
天命とは、中国の古代王朝が天から与えられた統治権を意味する概念です。これは、特に周代(紀元前11世紀〜紀元前256年)に始まり、中国の歴史を通じて重要な役割を果たしてきました。天命の考え方は、王や皇帝がただ支配するだけでなく、民衆の福祉のために道徳的に行動する責任があるというものです。もし統治者がその責任を果たさなければ、天災や反乱などの形で天命を失うとされていました。
天命の概念は、王権の正当性を神聖化し、王朝の交代を正当化するために用いられました。例えば、周は殷を倒した際に、殷が天命を失ったと主張しました。これは、王朝が民衆のために働かず、道徳的に堕落したときに天命を失うという考え方に基づいています。
また、天命は一つの王朝に永遠に与えられるものではなく、新たな王朝が興ることで新しい天命が与えられるとされていました。これにより、中国の歴史においては、王朝が交代することが自然な流れとされ、王朝の交代は天命の移行と見なされていました。
天命の考え方は、儒教、道教、法家などの中国の哲学や宗教にも影響を与え、統治者は民衆のために働くべきであり、民衆は不正な統治者に対して反乱を起こす権利があるという考え方が広まりました。これは、ヨーロッパにおける王の神聖権の概念とは異なり、ヨーロッパでは王の神聖権は特定の家系に永遠に与えられるものであり、反乱は罪とされていましたが、天命の概念では、統治者が民衆のために働かない場合、反乱を通じて新しい統治者が天命を得ることが正当化されていました。
このように、天命の概念は中国の政治思想に大きな影響を与え、王朝の交代を正当化し、統治者に対する民衆の権利を強調するものでした。また、中国の文化圏に属する国々、例えば朝鮮や安南(現在のベトナム北部)にも影響を与えました。