なぜ貿易が行われるのか
人類は歴史上、様々な地域で富の交換、すなわち貿易を行ってきました。
貿易はなぜ行われるのでしょうか。
古代、人々は物々交換でほしいものを手に入れるしかありませんでした。
しかし、貨幣が発明されると、モノの価値が同じ尺度で測れるようになり、価値そのものも貨幣を通じて保存することができるようになりました。
その結果、さまざまな国や地域で、自国の特産品を生産し、他国に輸出し、自国にないものを他国から輸入するという状況が起こり始めます。
これが、自国の生産物と他国の生産物を貨幣を媒介として交換する貿易の始まりでした。
国際分業の利益
貿易の進展に伴い、各国は自国の得意な生産品を集中して作るようになり、その結果国際分業が行われるようになりました。
国際分業が行われると、各地域の資源が効率的に生産活動に使われ、その結果国際的に利益が増加するのです。
この国際分業の有用性を、経済学の視点から説明したのが、イギリスの経済学者リカード(1772年~1823年)です。
彼は、自国の特異な商品を特化して生産する意義を、比較生産費説で説明しました。
比較生産費説とは
リカードは、自国イギリスと、貿易相手国ポルトガルを対象に、比較生産費説を唱えました。
イギリスは、毛織物の産地でポルトガルはワインの産地でした。
2つの国では、以下の表のような生産構造になっていました。この時、
貿易は2国のみ、生産物も毛織物とワインのみ、2国の労働者は自国から移動できないという前提があるものとします。
■特化前
| イギリス | ポルトガル |
毛織物1単位生産の労働者数 | 100人 | 90人 |
ワイン1単位生産の労働者数 | 120人 | 80人 |
■特化後
| イギリス | ポルトガル |
毛織物生産 | 220人で2.2単位生産可能 | ― |
ワイン生産 | ― | 170人で2.125単位生産可能 |
この表からわかるように、イギリスでは毛織物の生産を220人で行うことによって、220人÷100人=2.2単位生産できます。
一方ポルトガルでは、ワイン生産を170人が行うことで、170人÷80人=2.125単位生産できます。
つまり、生産品を自国に優位なものに特化することによって、毛織物は0.2単位、ワインは0.125単位増産できるようになるのです。
リカードはこれを根拠に、分業と貿易の意義を説明しました。