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蜻蛉日記原文全集「さてついたち三日のほどに」 |
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著作名:
古典愛好家
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さて例のものおもひは、この月も時々、おなじやうなり。廿日のほどに、
「遠うものする人にとらせん。この餌袋(ゑぶくろ)のうちに、袋むすびて」
とあれば、むすぶほどに、
「いできにたりや。歌を一(ひと)ゑぶくろいれて給へ。ここにいとなやましうて、え詠むまじ」
とあれば、いとをかしうて、
「の給へるもの、あるかぎり詠みいれてたてまつるを、もしもりやうせん、ことふくろをぞ給はまし」
とものしつ。
二日許(ばかり)ありて、
「心ちのいとくるしうても、ことひさしければなん、一(ひと)ゑぶくろといひたりしものを、わびてかくなんものしたりし、かへし、かうかう」
などあまたかきつけて、
「いとようさだめて給へ」
とて、雨もよにあれば、すこしなさけある心ちして待ち見る。おとりまさりは見ゆれど、さかしうことわらんもあいなくて、かうものしけり。
こちとのみ風のこころをよすめれば かへしはふくもおとるらんかし
と許(ばかり)ぞものしける。
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