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蜻蛉日記原文全集「からうじて椿市にいたりて」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

からうじて椿市にいたりて

からうじて椿市(つばいち)にいたりて、例のごととかくして出でたつほどに、日も暮れはてぬ。雨や風なほやまず。火ともしたれどふき消ちていみじくくらければ、夢のみちの心ちしていとゆゆしく、いかなるにかとまで思ひまどふ。からうじて祓(はらへ)殿にいたりつきけれど、雨もしらずただ水のこゑのいとはげしきをぞ、さななりと聞く。御堂にものするほどに心ちわりなし。おぼろげに思ふことおほかれど、かくわりなきに物おぼえずなりにたるべし、なにごとも申さで、明けぬといへど、雨なほおなじやうなり。昨夜(よべ)にこりてむげに昼になしつ。

おとせでわたるも森のまへを、さすがに

「あなかまあなかま」


と、ただ手をかきおもてをふり、そこらの人のあぎとふやうにすれば、さすがにいとせんかたなくをかしく見ゆ。




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