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蜻蛉日記原文全集「それより立ちて行きもて行けば」 |
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著作名:
古典愛好家
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蜻蛉日記
それより立ちて行きもて行けば
それより立ちて、行きもて行けば、なでふことなき道も、山ふかき心ちすればいとあはれに、水のこゑも例ににず、霧は道まで立ちわたり、木の葉はいろいろに見えたり。水は石がちなる中よりわきかへりゆく。夕日のさしたるさまなどを見るに、涙もとどまらず。道はことにをかしくもあらざりつ。もみぢもまだし、花もみな失せにたり、枯れたるすすきばかりぞ見えつる。ここはいと心とに見ゆれば、簾まきあげて、下簾(したすだれ)おしはさみて見れば、着なやしたる物の色も、あらぬやうに見ゆ。うすいろなる薄物の裳を引きかくれば、腰などちりゐて、こがれたる朽葉(くちば)に合ひたる心ちもいとをかしうおぼゆ。かたゐどもの坏(つき)、鍋(なべ)などすゑてをるもいとかなし。下衆近なる心ちして、入り劣りしてぞおぼゆる。ねぶりもせられず、いそがしからねば、つくづくと聞けば、目も見えぬもののいみじげにしもあらぬが、思ひけることどもを、人や聞くらんとも思はずのゝしり申すを聞くもあはれにて、ただ涙のみぞこぼるる。
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