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蜻蛉日記原文全集「つごもりよりなに心地にかあらん」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

つごもりよりなに心地にかあらん

つごもりより、なに心地にかあらん、そこはかとなくいとくるしけれど、さはれとのみ思ふ。命をしむと人に見えずもありにしがなとのみ念ずれど、見聞く人ただならで、芥子焼(けしや)きのやうなるわざすれど、なほしるしなくてほどふるに、人は、かくきよまはるほどとて、例のやうにもかよはず、あたらしきところつくるとてかよふたよりにぞ、立ちながらなどものして、

「いかにぞ」


などもある。心地よはくおぼゆるに、をしからでかなしくおぼゆる夕ぐれに、例の所よりかへるとて、蓮の実一本(ひともと)を、人していれたり。

「くらくなりぬれば、まゐらぬなり。これ、かしこのなり。見給へ」


となんいふ。かへりごとには、ただ、

「生きて生けらぬ、ときこえよ」


といはせて、おもひふしたれば、あはれ、げにいとをかしかなるところを、命もしらず、人の心もしらねば、

「いつしか見せん」


とありしも、さもあらばれ、やみなんかしと思ふもあはれなり。

花にさきみになりかはるよをすてて うきはの露と我ぞけぬべき

など思ふまで、日をへておなじやうなれば、心ぼそし。よからずはとのみ思ふ身なれば、つゆばかりをしとにはあらぬを、ただこの一人ある人いかにせんとばかり思ひつづくるにぞ、涙せきあへぬ。 




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