現代語訳(口語訳)
居ること数日、項羽兵を引きて西し、咸陽を屠り、秦の降王子嬰を殺し、秦の宮室を焼く。
(鴻門之会を終えて)数日とどまり、項羽は兵を率いて西に向かい、咸陽を攻め滅ぼし、秦の最後の皇帝である子嬰を殺し、秦王朝の宮廷を焼きました。
火三月滅せず。
火は三ヶ月鎮まりませんでした。
其の貨宝婦女を収めて東せんとす。
(項羽軍は)秦の財宝や女性を手中に収めて東に向かおうとしました。
人或いは項王に説きて曰はく、
ある者が項王に説いて言うことには、
「関中は山河を阻てて四塞し、地は肥饒なり。
「関中は山や川に四方を隔てられ、土地は肥沃です。
都して以て覇たるべし。」と。
ここを都とすれば(天下に)覇を唱えることができるでしょう。」と。
項王秦の宮室の皆以て焼けて残破せるを見、又心に懐思し、東帰せんと欲して曰はく、
項王は、秦の宮廷がすべて焼けて破壊されたのを見て、そして(故郷を)思って、東に帰ろうと思って言いました。
「富貴にして故郷に帰らざるは、繡を衣て夜行くがごとし。
「成功して故郷に帰らないのは、立派な着物を着て夜に歩くようなものだ。
誰か之を知る者ぞ。」と。
誰がこれ(成功したことを)知るだろうか、いや知らない。」と。
説く者曰はく、
(項王に)説いた者は言いました。
「人は言ふ、『楚人は沐猴にして冠するのみ』と。果たして然り。」と。
「世間は『楚の人は、猿が人まねをして冠をかぶっているだけだ。』と言っている。やはりそのとおりだ。」と。
項王之を聞き、説く者を烹る。
項王はこれを聞いて、説いた者を煮殺してしまいました。
単語解説
項羽 | 鴻門之会での「項王」と同一人物 |
屠 | 敵を破る、打ち負かす |
子嬰 | 秦最後の皇帝 |
収其貨宝婦女 | 戦利品として財宝や女性を奪ったということ |
阻山河四塞 | 四方を山河で囲まれており、守りに優れているということ |
富貴 | お金持ちで地位や身分が高いこと。ここでは「成功して」と訳す |