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宇治拾遺物語『歌詠みて罪を許さるること(今は昔、大隅守なる人〜)』の現代語訳・口語訳と解説 |
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著作名:
走るメロス
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このテキストでは、宇治拾遺物語の一節『歌詠みて罪を許さるること』の現代語訳(口語訳)とその解説を記しています。
宇治拾遺物語は13世紀前半ごろに成立した説話物語集です。編者は未詳です。
今は昔、大隅守なる人、国の政をしたため行ひ給ふ間、郡司のしどけなかりければ、
「召しにやりて戒めむ。」
と言ひて、さきざきのやうに、しどけなきことありけるには、罪に任せて、重く軽く戒むることありければ、一度にあらず、たびたびしどけなきことあれば、重く戒めむとて、召すなりけり。
「ここに召して、率て参りたり。」
と、人の申しければ、さきざきするやうにし伏せて、尻、頭にのぼりゐたる人、しもとをまうけて、打つべき人まうけて、さきに人二人引き張りて、出で来たるを見れば、頭は黒髪も交じらず、いと白く、年老いたり。
見るに、打ぜむこといとほしくおぼえければ、何事につけてかこれを許さむと思ふに、事つくべきことなし。過ちどもを片端より問ふに、ただ老ひを高家にていらへをる。いかにしてこれを許さむと思ひて、
「おのれはいみじき盗人かな。歌は詠みてむや。」
と言へば、
「はかばかしからずさぶらへども、詠みさぶらひなむ。」
と申しければ、
「さらばつかまつれ。」
と言はれて、ほどもなく、わななき声にてうち出だす。
年を経て頭の雪は積もれどもしもと見るにぞ身は冷えにける
と言ひければ、いみじうあはれがりて、感じて許しけり。人はいかにも情けはあるべし。
今となっては昔のことですが、大隅守である人が、(国司として)国の政治を取り仕切っていらっしゃった間、郡司がだらしがなかったので、
「呼び寄せて戒める。」
と言って、以前のように、だらしがないことがあった際には、その罪(の重さ)にまかせて、重く軽く罰したことがありましたので、一度だけではなく、何度もだらしがないことがあったので、(今回は)厳重に罰すると(思って)、呼び寄せたのでした。
「ここに連れて、率いて参りました。」
と従者が申し上げると、以前(注意を与えたときの)のように押さえつけて、(郡司の)おしりや頭にのって(押さえつける)人、むちを用意して、(郡司をむちで)打つ人を用意して、先に二人の人が引っ張って、出てきました。(その人を)見ると、頭には黒髪はなく、大変白く、そして年老いていました。
(その姿)見ると、(国司は、郡司のことをムチで)打つことを気の毒に思われたので何かに(理由を)つけて郡司を許そうと思うのですが、口実にできることがありません。過ちを片っ端から尋ねると、ただ老いを理由に応えます。(国司は、)どうやってこの郡司を許そうかと思って、
「おまえはたいそうな曲者だな。歌は詠むのか。」
と言うと、
「本格的なものではございませんが、お詠み申し上げましょう。」
と申したので、(国司は)
「では詠め。」
と言いました。ほどなくして、震えた声で詠み上げます。
年月を経て、頭の上に雪は積もった(白髪が増えた)けれども(体は冷えませんが)、ムチを見ると体が(恐怖で)冷えあがってしまいました。
と言ったので、大変感心なさって、感動して許したのでした。人はぜひとも風情を理解する心があったほうが良いものです。
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