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源氏物語『夕顔 廃院の怪(帰り入りて探り給へば女君はさながら〜)』の現代語訳 |
著作名:
走るメロス
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源氏物語『夕顔 廃院の怪』
ここでは、源氏物語、夕顔の章の中の『廃院の怪』(帰り入りて探り給へば、女君はさながら臥して〜)の現代語訳をしています。
原文(本文)
帰り入りて探り給へば、女君はさながら臥して、右近はかたはらにうつ伏し臥したり。「こはなぞ。あな、ものぐるほしのもの怖ぢや。荒れたる所は、きつねなどやうのものの、人おびやかさむとて、け恐ろしう思はするならむ。まろあれば、さやうのものにはおどされじ。」
とて、引き起こし給ふ。
「いとうたて乱り心地の悪しう侍ば、うつ伏し臥して侍るや。御前にこそわりなく思さるらめ。」
と言へば、
「そよ、などかうは。」
とて、かい探り給ふに息もせず。引き動かし給へど、なよなよとして、我にもあらぬさまなれば、いといたく若びたる人にて、物にけどられぬるなめりと、せむ方なき心地し給ふ。紙燭持て参れり。右近も動くべきさまにもあらねば、近き御几帳を引き寄せて、
「なほ持て参れ。」
とのたまふ。例ならぬことにて、御前近くもえ参らぬつつましさに、長押にもえのぼらず。
「なほ持て来や、所に従ひてこそ。」
とて、召し寄せて見給へば、ただこの枕上に、夢に見えつる容貌したる女、面影に見えて、ふと消え失せぬ。昔物語などにこそ、かかることは聞け、といとめづらかにむくつけけれど、まづ、この人いかになりぬるぞと思ほす心騒ぎに、身の上も知られ給はず、添ひ臥して、
「やや。」
と、驚かし給へど、ただ冷えに冷え入りて、息はとく絶え果てにけり。言はむ方なし。頼もしくいかにと言ひ触れ給ふべき人もなし。法師などをこそはかかる方の頼もしきものには思すべけれど。さこそ強がり給へど、若き御心にて、いふかひなくなりぬるを見給ふに、やる方なくて、つと抱きて、
「あが君、生き出で給へ。いといみじき目な見せ給ひそ。」
とのたまへど、冷え入りにたれば、けはひもの疎くなりゆく。右近は、ただあなむつかしと思ひける心地みなさめて、泣き惑ふさまいといみじ。南殿の鬼のなにがしの大臣おびやかしける例を思し出でて、心強く、
「さりともいたづらになり果て給はじ。夜の声はおどろおどろし。あなかま」
と諌め給ひて、いとあわたたしきに、あきれたる心地し給ふ。
現代語訳(口語訳)
(光源氏が)お帰りになって(暗闇の中を)手探りなさると、女君(夕顔)はそのまま横になっており、右近は側にうつ伏せになっています。
「これは何事だ。まぁ、異常なほどの怖がり方ではないか。(このように)荒れている所(家)では、狐などが人を脅かそうとして、そら恐ろしく思わせるのだろう。私がいるから、そのようなものには脅されることはあるまい。」
といって、引き起こされます。(右近が)
「とても、よりいっそう気味が悪く取り乱した心地がしたので、うつ伏せになって臥せてていたのです。ご主人様(夕顔)こそむやみやたらに(恐ろしく)お思いでしょう。」
と言えば、(光源氏は)
「そうだ、どうして(このように怖がるの)か。」
と言って探ってご覧になると、(夕顔は)息もしていません。引き動かされますが、弱々しい様子で、正気ではない様子です。たいそう子供っぽく振る舞っている人なので、物の怪に正気を奪われてしまったのであろうと、(光源氏は)どうしたらよいのかわからないままでいらっしゃいます。
(管理人の子が)紙燭を持って参りました。右近も動ける様子ではないので、(光源氏は)近くの御几帳を引き寄せて、
「(紙燭を)もっと近くに持ってこい。」
とおっしゃいます。いつもと違ったことなので(主君の寝室に入るということが例にないことなので)、(管理人の子は)光源氏のお側に寄ることもできず、気が引けて、長押にものぼることができずにいます。
「もっと近くに持ってくるのだ、(遠慮するのも)場所をわきまえてだ。」
といって、近くに寄せて(夕顔の顔を)ご覧になると、すぐこの枕元に、夢で見た姿をした女性が、まぼろしとして現れて、ふっと消えていなくなったのです。昔の物語の中でこそこのようなことは耳にしたことがあります、と、めったにないことで薄気味悪いのですが、まず、この人(夕顔)はどうなったのかとお思いになる胸騒ぎに、(光源氏の)身に何が起こるかもお考えにならずに、寄り添って、
「どうしたのか。」
と起こそうとなさいますが、(夕顔は)ただ冷たくなって、息はすでに絶えてしまっていました。なんとも言いようがありません。(周りには)どうしたらよいかと頼りにお話できる人もおりません。法師などこそは、このような場合に頼りになる者であると思うはずですが。(そのような人も周りにおりません。)(光源氏は)強がっていらっしゃましたが、お若い心持ちであるので、(夕顔が)どうしようもない状態になっているのをご覧になるに、なすすべがなく、じっと抱きしめて
「私の姫君よ、生き返ってください。(私を)とてもひどい目に遭わせないでください。」
とおっしゃいますが、(体は)冷えきってしまい、様子はなんとなくいやな感じになっていきます。右近は、ただ、あぁ気味が悪いと思っていた気持ちはすっかりさめて、泣いて取り乱す様子はとてもはなはだしいです。紫宸殿の鬼が某とかいう大臣を脅かしたという例を思い出して、心強く
「そうはいっても、むなしく死んでしまうことはあるまい。夜の鳴き声は大げさ(に聞こえる)。ほら、やかましい。」
と(右近を)諫めなさいますが、たいそう突然のことで、途方に暮れる気持ちがなさいます。
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