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蜻蛉日記原文全集「今日めづらしき消息ありつれば」 |
著作名:
古典愛好家
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蜻蛉日記
今日めづらしき消息ありつれば
今日めづらしき消息ありつれば、
「さもぞある、いきあひてはあしからん、いととくものせよ。しばしはけしき見せじ、すべてありやうにしたがはん」
などさだめつるかひもなく、先だだれにたれば、いふかひなくてあるほどに、と許(ばかり)ありて来(き)ぬ。
「大夫はいづこにいきたりつるぞ」
とあれば、とかういひまぎらはしてあり。日ごろも、かく思ひまうけしかば、
「身の心ぼそさに、人のすてたる子をなんとりたる」
などものしおきたれば、
「いで、見ん。誰が子ぞ。我いまは老いにたりとて、若人(わかうど)もとめてわれを勘当したまへるならん」
とあるに、いとをかしうなりて、
「さは見せたてまつらん。御子にし給はんや」
とものすれば、
「いとよかなり。させん。なほなほ」
とあれば、われもとういぶかしさによびいでたり。ききつる年よりもいとちひさう、いふかひなくをさなげなり。ちかうよびよせて
「立て」
とて立てたれば、丈四尺許にて、髪はおちたるにやあらん、裾さきたる心ちして丈に四寸許ぞたらぬ、いとらうたげにて、かしらつきをかしげにて様体(ぞうだい)いとあて はかなり。見て、
「あはれ、いとらうたげなめり。誰が子ぞ、なほいへ、なほいへ」
とあれば、はぢなかめるを、さはれ、あらはしてむと思ひて、
「さは、らうたしと見給ふや、きこえてん」
といへば、ましてせめらる。
「あなかしがまし、御子ぞかし」
といふにおどろきて、
「いかにいかに、いづれぞ」
とあれど、とみにいはねば、
「もしささのところにありと聞きしか」
とあれば、
「さなめり」
とものするに、
「いといみじきことかな。いまははふれ失せにけんとこそ見しか。かうなるまで見ざりけることよ」
とてうち泣かれぬ。この子もいかにおもふにかあらん、うちうつぶして泣きゐたり。みる人もあはれに、むかし物語のやうなれば、みな泣きぬ。ひとへのそであまたたび引き継いでつつ泣かるれば、
「いとうちつけにも、ありきには今は来じとするところに、かくていましたること。われゐていなん」
などたはぶれいひつつ、夜ふくるまで泣きみ笑ひみして、みな寝ぬ。
つとめて、帰らんとてよびいだして、見て、いとらうたがりけり。
「今ゐていなん、車よせばふと乗れよ」
とうち笑ひていでられぬ。それよりのち、文などあるには、かならず、
「ちひさき人はいかにぞ」
など、しばしばあり。
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