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蜻蛉日記原文全集「そのころほひすぎてぞ」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

そのころほひすぎてぞ

そのころほひすぎてぞ、例の宮にわたり給へるに、まゐりたれば、去年(こぞ)も見しに花おもしろかりき。すすきむらむらしげりて、いとほそやかに見えければ、

「これ掘りわかたせ給はば、すこし給はらむ」


ときこえおきてしを、ほどへて川原へものするに、もろともなれば

「これぞ、かの宮かし」


などいひて、人をいる。

「「まゐらんとするにをりなき。類のあればなん。一日とり申しすすききこえて」

とさぶらはん人にいへ」


とて、ひきすぎぬ。はかなき祓(はらへ)なればほどなう帰りたるに、

「宮よりすすき」


といへば、見れば長櫃(ながびつ)といふものにうるわしう掘りたてて、青き色紙(しきし)をむすびつけたり。見れば、かくぞ

ほにいでばみちゆく人もまねくべき やどのすすきをほるがわりなき

いとをかしうも。この御かへりはいかが、わするるほど思ひやれば、かくてもありなん。されどさきざきも いかがとぞおぼえたるかし。



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