古代オリエントの多神教
古代オリエントとは一般的には、紀元前3500年から紀元前500年の間に栄えた、現在の中東にあたる地域を指します。この地域には、メソポタミア、エジプト、レバント、カルタゴ、アラビア半島、アナトリア、カフカス、イランなどの文明が存在しました。これらの文明は、互いに文化的な交流や影響を与えながら、独自の宗教を発展させました。ニップルのエンリル神、バビロンのマルドゥク神、アッシュルのアッシュル神など、都市ごとの都市神が最高神としてもあがめられていました。
古代オリエントの宗教は、ほとんどが多神教でした。多神教とは、複数の神々を信仰する宗教のことです。多神教の中には、一神教とは異なり、唯一の神を信仰することではなく、複数の神々の中から一つの神を崇拝することを主張するものもありました。これを一神崇拝と呼びます。例えば、古代エジプトでは、アメンホテプ4世がアテン神を唯一の神として崇拝する一神崇拝を導入しましたが、彼の死後に多神教に戻りました。また、古代イスラエルでは、ヤハウェ神を唯一の神として崇拝する一神崇拝が徐々に定着しましたが、それ以前には多神教や一神崇拝の時期もあったと考えられています。
古代オリエントの多神教は、それぞれの神々が自然現象や人間の運命を司ると考えられていました。神々は、人間と同じように感情や欲望を持ち、争いや恋愛をすることもありました。神々は、神殿や祭壇で人間からの祈りや供物を受け取り、人間に恵みや罰を与えることができました。神々は、人間の姿や動物の姿、あるいはその両方の姿で表現されることが多く、美術や文学において様々な神話や物語が生まれました。
古代オリエントの多神教は、地域や時代によって変化しました。神々の名前や性格、役割、関係などは、文明の興亡や外部の影響によって変わることがありました。例えば、メソポタミアでは、シュメール人、アッカド人、バビロニア人、アッシリア人などの異なる民族が支配したことで、神々の優劣や属性が変わりました。また、エジプトでは、新王国時代になると、アメン神が最高神として崇められるようになりました。
古代オリエントの多神教は、後の宗教にも大きな影響を与えました。特に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの一神教は、古代イスラエルの宗教から発展したものであり、古代オリエントの多神教の要素を受け継いだものと言えます。例えば、創世記や出エジプト記などの聖書の物語は、メソポタミアやエジプトの神話と類似点が見られます。また、天使や悪魔、天国や地獄などの概念も、古代オリエントの多神教の影響を受けたものと考えられています。