はじめに
竹取物語の一説、「
天の羽衣」ついて現代語訳をしています。天の羽衣は、「かぐや姫の昇天」の中の一説です。
天の羽衣
天人の中(の一人)に、持たせている箱があります。(この箱には)天の羽衣が入っています。また別(の箱)には、不死の薬が入っています。一人の天人が言うことには、
「壺にあるお薬をお召しになってください。けがれた所のものを召しあがったので、ご気分がすぐれないでしょう。」
と言って、(薬を)持って近づいたので、(かぐや姫は)少しそれをおなめになって、(残りの薬を)少し形見にと思い、脱いでおく着物にくるもうとすると、そこにいる天人がくるませずにいます。お着物(天の羽衣)を取り出して(かぐや姫に)着せようとします。そのときに、かぐや姫は、
「少しの間待ちなさい。」
と言います。
「(この天の羽)衣を着せた人は、(普通の人のそれとは)心が変わってしまうということです。一言、言い残すべきことがありますよ。」
と言って、手紙を書きます。
天人は
「遅い。」
とじれったく思います。かぐや姫は
「ものの道理を知らぬことを、おっしゃらないでください。」
言って、たいそう落ち着いて、帝にお手紙を差し上げなさいます。慌てない様子です。
「このようにたくさんの人をお遣わし下さり、(私を)お引きとめなさいますが、(それを)許さない迎えがやって参りまして、(私を)召し連れておいとましてしまうので、残念で悲しいことです。帝にお仕え申し上げないままになってしまいましたのも、このように複雑な身の上でございますので、(帝は)納得できないとお思いになっておられるでしょうが、強情に(宮仕えを)お引き受け申し上げなかったことを、無礼な者と思いとどめられてしまいますことが、心残りでございます。」
と書いて、
今はもうお別れと、天の羽衣を身にまとうときに、あなた様のことをしみじみと思い出すことですよ
と詠んで、壺の薬を付け加えて、頭の中将を呼び寄せて(帝に)献上させます。中将に、天人は(壺を)持って渡します。中将が(壺を)取ったので、(天人が)さっと天の羽衣を(かぐや姫に)お着せ申し上げたところ、翁を気の毒だ、ふびんだとお思いになっていたことも( 天の羽衣の影響でかぐや姫の心から)消えてしまいました。この衣を着た人は、思い悩むことがなくなってしまったので、車に乗って、百人ほどの天人を連れて、(天に)昇ってしまいました。