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20_80 民主政治の基本原理と日本国憲法 / 民主政治

日本の刑事司法制度とは わかりやすい政治・経済67

著者名: レキシントン
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日本における刑事手続きは、国家権力による人権侵害を防ぎ、個人の自由を保障するために、日本国憲法によって厳格なルールが定められています。ここでは、憲法が定める人身の自由に関する諸原則と、日本の司法制度が抱える現実的な課題について、わかりやすく解説します。

身体の安全を守るための憲法的保障

日本の刑事手続きにおいて、最も基本的なルールの一つが「不当な身体的苦痛を与えないこと」です。
憲法第36条では、公務員による拷問や残虐な刑罰を全面的に禁止しています。この規定は、かつての強圧的な捜査への反省から生まれた極めて重要な原則です。たとえば、警察官や刑務官が被疑者、被告人、あるいは受刑者などの収容者に対して暴行や虐待を行うことは犯罪(特別公務員暴行陵虐罪)であり、実際に名古屋刑務所などで起きた事件では、刑務官の有罪が確定した事例もあります。
また、この第36条に関連して、死刑制度そのものが「残虐な刑罰」に当たるのではないかという議論が長く続いています。これに対し、最高裁判所は、憲法第31条(適正手続きの保障)などを根拠に、「法律の定める手続きによれば生命を奪う刑罰も許容される」として、死刑を合憲(憲法に違反しない)とする立場をとっています。



公正な裁判を受ける権利

ひとたび犯罪の疑いをかけられ、刑事被告人となった場合、その人物には自分の身を守るための権利が憲法第37条によって認められています。
まず、裁判は「公平」かつ「迅速」で、さらに「公開」された場で行われなければなりません。これは、密室での不当な裁きを防ぐための仕組みです。また、被告人には自分に有利な証人を呼ぶ権利や、公費で弁護士を依頼できる「公的弁護制度(国選弁護制度)」が保障されています。特に2006年からは、勾留された段階から弁護士をつけられる「被疑者国選弁護制度」が導入・拡大されており、防御権の強化が進んでいます。

沈黙する権利と自白の取り扱い

刑事手続きの中で、自分にとって不利な証言を強制されない権利を「黙秘権」と呼びます(憲法第38条)。
この規定に基づき、無理やり取らされた自白には証拠としての能力を認めないという「自白排除の法則」が確立されています。また、たとえ本人が自白していたとしても、それ以外に客観的な証拠(補強証拠)がない限り、有罪にすることはできません(補強法則)。これは、自白を得るための過酷な取り調べや、それによる冤罪を防ぐための防波堤となります。しかし、現実の捜査現場では、捜査官が意図した答えを導き出すような「不当な誘導」が行われているという批判もあり、運用の難しさが指摘されています。

法的安定性を保つためのルール

憲法第39条には、法の適用に関する二つの重要な原則が記されています。
一つは、「遡及処罰の禁止」です。これは、ある行為をした時点では合法だったものを、後から作った法律で罰してはいけないというルールです。歴史的には、第二次世界大戦後の東京裁判やニュルンベルク裁判において、この原則との整合性が議論の対象となりました。
もう一つは、「二重処罰の禁止(一事不再理)」です。一度、裁判によって判決が確定した事件については、再び裁判にかけることはできません。これにより、一度無罪などが確定した人が、同じ理由で何度も国家から追及される不安を解消し、法的地位の安定を図っています。

司法の現場における課題と人権侵害のリスク

憲法で立派な原則が掲げられていても、実際の運用においては多くの課題が残されています。ここでは代表的な三つの事例を挙げます。
① 別件逮捕の問題
重大な事件の証拠が十分に揃っていない場合、警察が別の軽微な事件(別件)を理由に容疑者を逮捕し、その拘束期間を利用して本命の事件を取り調べる手法を「別件逮捕・別件勾留」と呼びます。これは、本来の逮捕理由とは異なる目的で身柄を拘束するものであり、裁判官の審査を経て逮捕するという「令状主義」の精神を損なう恐れがあると指摘されています。
② 自白の任意性をめぐる論点
理論上は自白の強制は禁じられていますが、実際には捜査機関が作成した供述調書が裁判で決定的な証拠となるケースが少なくありません。中には、長期の拘束による精神的疲弊から、本意ではない内容の調書に署名してしまう事案も報告されています。こうした冤罪の温床をなくすため、現在では取り調べの全過程を録音・録画する「可視化」が進められていますが、対象となる事件が限られているなどの課題も残っています。
③ 「代用刑事施設(代用監獄)」の存在
本来、勾留された容疑者は法務省が管轄する「拘置所」に収容されるのが原則です。しかし日本では、実際には9割以上のケースで警察署内にある「留置場」に引き続き収容されています。これを「代用刑事施設」と呼びます。
同じ建物内に取り調べ室があるため、捜査官と容疑者が密接な環境に置かれやすく、長時間の取り調べが行われやすいという批判があります。国連の人権規約委員会からも、この制度は国際的な人権基準に抵触するとして廃止勧告を受けていますが、抜本的な改善には至っていません。

日本の刑事司法制度は、憲法が定める理想と、捜査の実情という現実の狭間で揺れ動いています。冤罪を未然に防ぎ、一人ひとりの人権を確実に守るためには、私たち市民がこうした制度の仕組みと課題を正しく理解し、司法のあり方を注視し続けることが大切です。
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・日本の刑事司法制度とは わかりやすい政治・経済67

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『教科書 政治・経済』 山川出版社

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