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源氏物語 桐壺 その5 母御息所の死去2 |
著作名:
春樹
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【源氏物語 原文】
限りあれば、さのみもえ留めさせたまはず、御覧じだに送らぬおぼつかなさを、言ふ方なく思ほさる。いとにほひやかにうつくしげなる人の、いたう面痩せて、いとあはれとものを思ひしみながら、言に出でても聞こえやらず、あるかなきかに消え入りつつものしたまふを御覧ずるに、来し方行く末思し召されず、よろづのことを泣く泣く契りのたまはすれど、御いらへもえ聞こえたまはず、まみなどもいとたゆげにて、いとどなよなよと、我かの気色にて臥したれば、いかさまにと思し召しまどはる。
輦車の宣旨などのたまはせても、また入らせたまひて、さらにえ許させたまはず。
「限りあらむ道にも、後れ先立たじと、契らせたまひけるを。さりとも、うち捨てては、え行きやらじ」
とのたまはするを、女もいといみじと、見たてまつりて、
「限りとて別るる道の悲しきに いかまほしきは命なりけり いとかく思ひたまへましかば」
と、息も絶えつつ、聞こえまほしげなることはありげなれど、いと苦しげにたゆげなれば、かくながら、ともかくもならむを御覧じはてむと思し召すに、
「今日始むべき祈りども、さるべき人びとうけたまはれる、今宵より」と、聞こえ急がせば、わりなく思ほしながらまかでさせたまふ。
御胸つとふたがりて、つゆまどろまれず、明かしかねさせたまふ。御使の行き交ふほどもなきに、なほいぶせさを限りなくのたまはせつるを、「夜半うち過ぐるほどになむ、絶えはてたまひぬる」とて泣き騒げば、御使もいとあへなくて帰り参りぬ。聞こし召す御心まどひ、何ごとも思し召しわかれず、籠もりおはします。
御子は、かくてもいと御覧ぜまほしけれど、かかるほどにさぶらひたまふ、例なきことなれば、まかでたまひなむとす。何事かあらむとも思したらず、さぶらふ人びとの泣きまどひ、主上も御涙のひまなく流れおはしますを、あやしと見たてまつりたまへるを、よろしきことにだに、かかる別れの悲しからぬはなきわざなるを、ましてあはれに言ふかひなし。
【現代語訳】
帝は、もはや更衣を手元に留めることはできないと思う反面、彼女が出て行くのを見送ることもできないと、もどかしさを感じておられました。
とても端整な顔つきの更衣がひどくやつれてしまい、帝との別れを悲しみながらも口に出して伝えることができない程に息も絶え絶えになっている様子をご覧になって、帝は過去も未来も真っ暗になった気がしていました。
帝は泣きながらいろいろなことを約束するものの、更衣は返事もできないような状態でよりいっそう弱々しく見えるので、どうしたものかと不安にかられています。
帝は、山車を用意はしていますが、いざとなると帰省することを許せないでいます。
「死の旅へも一緒に出ようと約束したではないか。私を置いて行かないでくれ。」と帝が伝えると、その気持ちをよく理解している更衣も
「限りのある生命ですが、別れるのはつらいです。生きていたいです。」
と息も絶え絶えに言いました。もっと帝に伝えたいことがありそうですが、その気力はありません。
死ぬのであればこのまま自分のそばで死なせたいと帝は思いましたが、「今夜から祈祷をするためにすでに高僧たちをよんでいる」と周りがせきたてるので、帝は仕方なく帰省を許しました。
帝は胸がつまって夜寝付くことができないでいました。使いの者がすぐに帰ってくるのですが、それすら待ち遠しいと思っていました。しかし使いの者は「更衣は夜中過ぎにお亡くなりになりました」 と言って戻ってきました。使いの者も故大納言家の人たちの泣き騒いでいるのを見て気落ちしてしまい、そのまま御所へ帰って来たのです。
これを聞いた帝は気が動転し、引き篭ってしまいました。忘れ形見の二の宮は側に置いておきたいとは思うものの、母の喪中に宮中にいるということは例にないので、更衣の実家へと帰省させることになりました。
二の宮は、何が起こったのかもわからない様子で、侍女たちが泣き叫び、帝も涙を流していらっしゃるのを不思議に思っているようです。父子の別れというものは何でもないような場合でも悲しいものですから、この時の帝のお気持ちほどお気の毒なものはありませんでした。
わかりやすいあらすじ
帝は、更衣が自分のそばを離れるのを許すこともできず、同時に彼女を留めることもできないということに悩んでいました。更衣はとても美しい顔立ちで、悲しみによって衰弱していて、彼女の状態から帝は彼女の別れを察しましたが、彼女は弱々しくて返事もできない状態でした。帝は何とかして彼女を救いたいと思いながら、彼女の体力の衰えに心を痛めました。
帝は泣きながらいろいろなことを約束しましたが、更衣は返事ができず、ますます弱々しく見えました。帝は不安にかられ、山車を準備していますが、帰省させることには抵抗がありました。
帝が「死への旅に一緒に行く約束をしたじゃないか。私を置いて行かないでくれ。」と伝えると、更衣もその気持ちを理解していると言いましたが、「命は限られているけれど、別れるのはつらい。生きていたい。」と言いました。彼女はもっと伝えたいことがあるようですが、気力がなくなっていました。
帝はもしも死ぬのならば、彼女を自分のそばで看取りたいと思いましたが、周りの人々が祈祷のために高僧たちを呼んでいることを知り、帰省を許すしかありませんでした。
帝は胸がいっぱいで夜眠ることができませんでした。使いの者が戻ってくるのを待ち望んでいましたが、使いの者が「更衣は夜中に亡くなりました。」と報告してきました。使いの者も大納言家の人々の泣き声に落胆し、そのまま帝の元に戻ってきたのです。
この知らせを聞いた帝は動揺し、引きこもってしまいました。忘れ形見として二の宮をそばに置いておきたいと思いましたが、母の喪中に宮中にいることは異例であり、更衣の実家へ帰省させることにしました。
二の宮は何が起こっているのか理解できず、侍女たちが泣き叫び、帝も涙を流しているのを不思議に思っていました。父と子の別れはどんな場合でも悲しいものであり、帝の気持ちがとてもかわいそうでした。
※あくまでもイメージを掴む参考にしてください。
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