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土佐日記『海賊の恐れ』 わかりやすい現代語訳と解説
著作名: 走るメロス
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土佐日記『海賊の恐れ』

このテキストでは、土佐日記の「二十三日。日照りて曇りぬ〜」から始まる部分の原文、現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては「海賊の恐れ」と題するものもあるようです。



土佐日記は平安時代に成立した日記文学です。日本の歴史上おそらく最初の日記文学とされています。作者である紀貫之が、赴任先の土佐から京へと戻る最中の出来事をつづった作品です。

紀貫之は、柿本人麻呂や小野小町らとともに三十六歌仙に数えられた平安前期の歌人です。『古今和歌集』の撰者、『新撰和歌』(新撰和歌集とも)の編者としても知られています。

原文

(※1)二十三日。日照りて曇り(※2)ぬ
「このわたり、海賊の恐れあり。」

と言へば、神仏を祈る。


二十四日。昨日の同じ所也。


二十五日。楫取らの
「北風悪し。」

と言へば、船出ださず。
「海賊追ひ来。」

と言ふこと、絶えず聞こゆ



二十六日。まことにやあらむ。
「海賊追ふ。」

と言へば、夜中ばかり船を出だして漕ぎ来る路に(※3)手向けする所あり。楫取して(※4)幣(ぬさ)奉らするに、幣の東へ散れば楫取の申して奉る言は、
「この幣の散る方に御船すみやかに漕がしめ給へ。」

と申して奉る。これを聞きて、ある女の童の詠める、
(※5)わたつみ(※6)ちふりの神に手向する幣の追風止まず吹か(※7)なむ

とぞ詠める。この間に、風のよければ楫取いたく誇りて、船に帆上げなど喜ぶ。その音を聞きて、童も嫗もいつしかと思ほへばにやあらん、いたく喜ぶ。この中に淡路の専女といふ人の詠める歌、
追風の吹きぬる時は行く船も帆手打ちて(※8)こそ嬉しかりけれ

とぞ。天気のことにつけて祈る。

【地頭と守護の役割とその違い】


現代語訳

二十三日。日が照ってから曇った。
「この辺りは、海賊の(襲ってくる)恐れがある。」

と言うので、神仏に祈る。



二十四日。昨日と同じ所に(とどまって)いる。


二十五日。船頭たちが、
「北風が荒々しい。」

と言うので、船を出さない。
「海賊たちが追いかけてくる。」

という噂が、絶えず耳に入る。


二十六日。(海賊が追ってくるという噂は)本当なのだろうか。
「海賊が後を追う。」

と言うので、夜中ぐらいに船を出して漕いで来る途中に、神仏に供え物をする所がある。船頭に幣を献上させると、(その)幣が東の方向へと散ったので船頭が申し上げる言葉は、
「この幣が散る方角にお船を速く漕がせて下さい。」

と申し上げる。これを聞いて、ある女の子が詠んだ歌。
大海原の航海を守ってくださる神様にお供えする幣を追いかけるようにして吹く風よ、どうか止まずに吹いていてほしい。

その間に風がいい感じになったので、船頭はたいそう得意になり、船に帆上げなどして喜んでいる。その声を聞いて、子どもも老人も、いつになったら(帰れるのだろうか)と思っていたのだろうか、ひどく喜んでいる。この中の淡路の専女という人が詠んだ歌。



船を吹き送る風が吹いていたときは、行く船の帆が風ではためいているように、私たちも手をたたいて嬉しがることだなぁ。

天気のことについて神仏に祈る。

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