先史時代の乾地農法とは、灌漑や水田などの水利施設を必要とせず、自然の降雨や地下水に頼って作物を栽培する農法のことです。乾地農法は、世界各地の乾燥地帯や半乾燥地帯で古くから行われてきた農業の形態であり、現在でも約40%の耕地面積を占めています。天水農法、略奪農法とも言います。乾地農法は、農業の起源や発展において重要な役割を果たしてきたと考えられますが、その歴史や特徴については、まだ十分に研究されていない部分も多いのが現状です。




先史時代の乾地農法は、主に気候変動や人口圧などの要因によって、狩猟採集から農業への移行を促された人々によって開発されました。乾地農法は、水が不足する環境に適応するために、さまざまな技術や工夫を用いて作物を栽培する方法を含みます。例えば、雨季に降った雨水を貯めるために、岩や土で堰を作ったり、畝やテラスを築いたり、植物の根や葉を覆うために、石や枯れ草を敷いたりするなどです。また、乾燥に強い作物や品種を選択したり、作物の多様化や輪作を行ったり、動物との共生や相互利用を図ったりするなどの戦略もあります。乾地農法は、水利施設を必要としないために、比較的低コストで行えるという利点がありますが、一方で、降雨量や気温の変動によって収穫量が大きく左右されるというリスクもあります。


先史時代の乾地農法は、世界各地で独自に発展したと考えられますが、その中でも代表的な事例として、以下のようなものが挙げられます。


メソポタミアは、現在のイラクやシリアにあたる地域で、紀元前4千年紀に世界最古の文明が興った場所です。メソポタミアでは、チグリス川やユーフラテス川などの河川の氾濫原で灌漑農業が行われていましたが、その一方で、河川から離れた丘陵地帯では、乾地農法が行われていました。メソポタミアの乾地農法では、雨季に降った雨水を利用して、大麦や小麦などの穀物を栽培していました。また、羊やヤギなどの家畜を飼育し、肉や乳製品、毛皮などを得ていました。メソポタミアの乾地農法は、紀元前3千年紀には、現在のトルコやイランにまで広がり、農業の発展に大きく寄与しました。


アンデスは、南アメリカ大陸の西部にある山脈で、紀元前2千年紀には、インカ帝国をはじめとするさまざまな文明が栄えた場所です。アンデスでは、高地や渓谷などの様々な地形に適応するために、乾地農法が工夫されて行われていました。アンデスの乾地農法では、テラスや堰などを築いて、雨水や地下水を貯めたり、流れたりさせることで、土壌の保水力や肥沃度を高めていました。また、ジャガイモやトウモロコシなどの作物を栽培し、標高や気候に応じて品種を変えたり、輪作や混作を行ったりしていました。さらに、ラマやアルパカなどの家畜を飼育し、肉や毛皮、糞などを得ていました。アンデスの乾地農法は、紀元前1千年紀には、現在のチリやアルゼンチンにまで広がり、農業の発展に大きく寄与しました。


アフリカは、世界最大の陸地面積を持つ大陸で、乾燥地帯や半乾燥地帯が広く分布しています。アフリカでは、紀元前1千年紀には、サハラ砂漠の南部や東部などで、乾地農法が行われていました。アフリカの乾地農法では、雨季に降った雨水を利用して、ヒエやキビなどの穀物を栽培していました。また、牛やヤギなどの家畜を飼育し、肉や乳製品、皮革などを得ていました。アフリカの乾地農法は、紀元後1千年紀には、現在のナイジェリアやケニアなどにまで広がり、農業の発展に大きく寄与しました。