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源氏物語『橋姫・薫と宇治の姫君』(秋の末つ方、四季にあててし給ふ御念仏を〜)の現代語訳・口語訳と解説 |
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著作名:
走るメロス
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ここでは、源氏物語の『橋姫』の章から、「秋の末つ方、四季にあててし給ふ御念仏を〜」から始まる部分の現代語訳・口語訳とその解説をしています。書籍によっては、「薫と宇治の姫君」と題するものもあるようです。
秋の末つ方、四季にあててし給ふ御念仏を、この川面は、網代の波も、この頃はいとど耳かしかましく静かならぬを、とて、かの阿闍梨の住む寺の堂に移ろひ給ひて、七日のほど行ひ給ふ。姫君たちは、いと心細く、つれづれまさりて眺め給ひけるころ、中将の君、久しく参らぬかなと、思ひ出できこえ給ひけるままに、有明の月の、まだ夜深くさし出づるほどに出で立ちて、いと忍びて、御供に人などもなく、やつれておはしけり。
川のこなたなれば、舟などもわづらはで、御馬にてなりけり。入りもてゆくままに、霧りふたがりて、道も見えぬ繁木の中を分け給ふに、いと荒ましき風のきほひに、ほろほろと落ち乱るる木の葉の露の散りかかるも、いと冷ややかに、人やりならずいたく濡れ給ひぬ。かかる歩きなども、をさをさならひ給はぬ心地に、心細くをかしく思されけり。
「山おろしにたへぬ木の葉の露よりも あやなくもろきわが涙かな
山賤のおどろくもうるさし。」
山賤のおどろくもうるさし。」
とて、随身の音もせさせ給はず。柴の籬を分けて、そこはかとなき水の流れどもを踏みしだく駒の足音も、なほ、忍びてと用意し給へるに、隠れなき御にほひぞ、風に従ひて、
「主知らぬ香。」
とおどろく寝覚めの家々ありける。
つづく
「近くなるほどに〜」の現代語訳と解説
秋も終わりの頃、(八の宮が)四季ごとになさる御念仏を、この川のほとりは、網代の波も、この頃はいっそう耳について静かではないので、といって、あの阿闍梨の住む寺の堂にお移りになられて、七日ほどお勤めになります。(八の宮の)姫君たちは、たいへん心細く、何もすることがなく手持ち無沙汰で物思いにふけっていらっしゃる頃、中将の君が、しばらく参らなかったな、とお思い出し申されるままに、有明の月が、まだ夜中に登っている頃に出立して、たいそうお忍びで、お供の人も少なく、目立たないお姿でおいでになりました。
川のこちら側なので、舟などの手間をかけることもなく、御馬でいらっしゃいました。山に入って行くにつれて、霧で(目の前が)ふさがって、道も見えないほど繁った木の中を分けて行かれると、たいそう荒々しく吹き争う風に、ほろほろと落ち乱れる木の葉の露が散りかかってくるのが、とても冷たくて、人に強いられたのではなく自らたいそう濡れておしまいになられました。このような外歩きも、ほとんど慣れていらっしゃらないというお気持ちに、心細く興味深く思われなさったのです。(中将の君が詠みました)
「山から吹き下ろす激しい風に絶えない木の葉の露よりも、取るに足らなくもろい私の涙だなあ
山賊が目を覚ますと面倒だ。」
山賊が目を覚ますと面倒だ。」
といって、随身の音もおさせになりません。柴の籬(まがき)を分けて、どことなく流れる水の流れを踏み進む馬の足音も、やはり、人目につかないようにと気配りをなさっていたのですが、隠れようのないない御匂いが、風にただよって
「どなたの香りか。」
とはっと目を覚ます家々があったのです。
つづく
「近くなるほどに〜」の現代語訳と解説
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