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源氏物語『若菜上・柏木と女三宮』(御几帳どもしどけなく引きやりつつ〜)の現代語訳と解説
著作名: 走るメロス
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源氏物語『若菜上・柏木と女三宮』

このテキストでは、源氏物語若菜上』の、「御几帳どもしどけなく引きやりつつ〜」から始まる部分の現代語訳・口語訳とその解説を記しています。書籍によっては『柏木と女三宮』と題するものもあるようです。



源氏物語とは

源氏物語は平安中期に成立した長編小説です。一条天皇中宮の藤原彰子に仕えた紫式部が作者とするのが通説です。


原文

御几帳どもしどけなく引きやりつつ、人気近く世づきてぞ見ゆるに、唐猫のいと小さくをかしげなるを、少し大きなる猫追ひ続きて、にはかに御簾のつまより走り出づるに、人々おびえ騒ぎて、そよそよと身じろきさまよふ気配ども、衣の音なひ、耳かしかましき心地す。猫は、まだよく人にもなつかぬにや、綱いと長く付きたりけるを、物にひきかけまつはれにけるを、逃げむと引こじろふほどに、御簾の側いとあらはに引き開けられたるを、とみに引き直す人もなし。この柱のもとにありつる人々も、心あわたたしげにて、ものおぢしたる気配どもなり。


几帳の際少し入りたるほどに、袿姿にて立ち給へる人あり。階より西の二の間の東の側なれば、紛れどころもなくあらはに見入れらる。紅梅にやあらむ、濃き、薄き、すぎすぎに、あまた重なりたるけぢめ、はなやかに、草子のつまのやうに見えて、桜の織物の細長なるべし。御髪の裾までけざやかに見ゆるは、糸をよりかけたるやうになびきて、裾のふさやかにそがれたる、いとうつくしげにて、七、八寸ばかりぞ余り給へる。御衣の裾がちに、いと細くささやかにて、姿つき、髪のかかり給へる側目、言ひ知らずあてにらうたげなり。夕影なれば、さやかならず、奥暗き心地するも、いと飽かず口惜し。鞠に身を投ぐる若君達の、花の散るを惜しみもあへぬ気色どもを見るとて、人々、あらはをふともえ見つけぬなるべし。猫のいたく鳴けば、見返り給へる面持ち、もてなしなど、いとおいらかにて、若くうつくしの人やと、ふと見えたり。

※つづく:「大将、いとかたはらいたけれど〜」の現代語訳と解説


現代語訳(口語訳)

御几帳などをだらしなく(横に)押しのけて、人のいる気配が近くて世慣れて見えているところに、唐猫でたいそう小さくてかわいらしいのを、少し大きな猫が追いかけて、急に御簾の端から走りだしたので、女房たちが怖がり騒いで、ざわざわと身動ぎ動きまわる様子や、衣擦れの音が、耳にやかましく思います。猫は、まだよく人になついていないのでしょうか、綱がたいそう長くつけてあったのを、(猫は綱を)物にひっかけ(綱が)からみついてしまったので、逃げようとして無理に引っ張るうちに、御簾の端がたいそう丸見えになるほど引き開けられたのを、すぐに直す人もいません。この柱の傍らにいた女房たちも、心が慌てているようで、物怖じしている様子です。


几帳のそばから少し入ったところに、袿姿で立っていらっしゃる方がいます。階から西の二間の東の端なので、隠れようもなくすっかりのぞくことができます。紅梅襲でしょうか、濃いものや薄いものが次々に、たくさん重なった色の変化が、鮮やかで美しく、(さまざまな色の紙を重ねてとじてある)草子の小口のように見えて、(その草子の表はおそらく)桜襲の織物の細長なのでしょう。(女三の宮の)御髪の先まではっきりと見える所は、糸をよりかけたようになびいて、(髪の)先がふさふさとした感じに切りそろえられているようすは、とてもかわいらしく、七、八寸ばかり(身長より)長くていらっしゃいます。お召し物の裾が余って、とても細く小柄で、姿つき、髪がかかっていらっしゃる横顔は、何ともいいようがないほどかわいらしいです。夕日の光なので、はっきりせずに、(部屋の)奥が暗い感じがするのも、(柏木には)たいそう物足りなく残念です。蹴鞠に夢中になっている若公達の、花が散るのを惜しんでいられないといった様子を見ようとして、女房たちは、丸見えになっているのを見つけることができないのでしょう。猫がたいそう泣いているので、振り返りなさった表情や、振舞いなど、たいそうおっとりしていて、若くかわいい方だと、(柏木は)ふと感じたのでした。

※つづく:「大将、いとかたはらいたけれど〜」の現代語訳と解説

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