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百人一首55『滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ』現代語訳と解説(縁語・頭韻など)
著作名: 走るメロス
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百人一首(55)大納言公任/歌の意味と読み、現代語訳、単語、品詞分解、覚え方

滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ


このテキストでは、百人一首に収録されている歌「滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ」のわかりやすい現代語訳・口語訳と解説(縁語、頭韻、句切れの有無など)、歌が詠まれた背景や意味、そして品詞分解を記しています。この歌は、百人一首の他に、千載和歌集拾遺和歌集にも収録されています。

※拾遺和歌集では以下のようになっています。
滝のは 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ




百人一首とは

百人一首は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した公家・藤原定家が選んだ和歌集です。100人の歌人の和歌を、1人につき1首ずつ選んで作られています。百人一首と言われれば一般的にこの和歌集のことを指し、小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)とも呼ばれます。


暗記に役立つ百人一首一覧

以下のテキストでは、暗記に役立つよう、それぞれの歌に番号、詠み手、ひらがなでの読み方、そして現代語訳・口語訳を記載し、歌番号順に一覧にしています。

暗記に役立つ百人一首一覧


原文

滝の音は 絶え久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ


ひらがなでの読み方

たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ



現代語訳

滝の音は(流れが)絶えてから長い月日が経ってしまいましたが、その名声は流れ伝えられて、今でもなお聞こえていることですよ。

解説・鑑賞のしかた

この歌の詠み手は、藤原公任(ふじわら の きんとう)、百人一首では大納言公任(だいなごんきんとう)とされています。祖父と父がそれぞれ関白・太政大臣を務めた名門の出自でした。


ただ単に滝のことを詠んだだけかもしれませんが、次のような考察もできるのではないでしょうか。藤原公任は、この歌を詠んだのと同時期に私撰和歌集『拾遺抄』を作成しています。滝の名声になぞらえて、優れた歌を将来に残していきたいとする撰者としての志、歌に対する敬意が、ひょっとしたらこの歌にこめられているのかもしれません。

また、藤原公任は政治的にも芸術的にも名門の出自であったため、幼いころから優れた芸術に触れる機会も多かったことでしょう。そのような幼少の経験が、このような歌を引き出したのかもしれません。

詞書によると、滝は大覚寺の滝殿の滝を指しています。平安時代には既に滝の流れは途絶えていたようですが、公任がこの歌を詠んで以来、その跡地は「名古曽(なこそ)の滝」としてさらに名をはせています。

主な技法・単語・文法解説

縁語

「音」、「絶え」、「流れ」、「聞こえ」は「滝」の縁語。

「なり(鳴る)」と「聞こえ」は「音」の縁語。


※「縁語(えんご)」とは、和歌の修辞技法のひとつ。ひとつの和歌にある言葉と、意味や音声の上で関連のある言葉を用いて表現に幅をもたせる技法。


頭韻

各句の頭が「た・た・な・な・な」となっていることで、一定のリズムが生まれています。このような技法のことを頭韻(とういん)といいます。

藤原公任が詠んだこの歌は、頭韻を用いた代表的な歌としても知られています。


句切れ

句切れなし。

品詞分解

※名詞は省略しています。



格助詞
係助詞
絶えヤ行下二段活用「たゆ」の連用形
接続助詞
久しくシク活用の形容詞「ひさし」の連用形
なりラ行四段活用「なる」の連用形
ぬれ完了の助動詞「ぬ」の已然形
接続助詞
こそ係助詞・係り結び
流れラ行下二段活用「ながる」の連用形
接続助詞
なほ副詞
聞こえヤ行下二段活用「きこゆ」の連用形
けれ詠嘆の助動詞「けり」の已然形



著者情報:走るメロスはこんな人

学生時代より古典の魅力に取り憑かれ、社会人になった今でも休日には古典を読み漁ける古典好き。特に1000年以上前の文化や風俗をうかがい知ることができる平安時代文学がお気に入り。作成したテキストの総ページビュー数は1,6億回を超える。好きなフレーズは「頃は二月(にうゎんがつ)」や「月日は百代の過客(くゎかく)にして」といった癖のあるやつ。早稲田大学卒業。

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