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蜻蛉日記原文全集「あくれば二月にもなりぬめり」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

あくれば二月にもなりぬめり

あくれば二月にもなりぬめり。雨いとのどかにふるなり。格子などあげつれど、例のやうに心あわただしからぬは、雨のするなめり。されどとまるかたは思ひかけられず。と許(ばかり)ありて、

「男どもはまゐりにたりや」


などいひて、起きいでて、なよよかならぬ直衣(なほし)、しほれよいほどなるかいねりの袿(うちき)ひとかさねたれながら、帯ゆるるかにてあゆみいづるに、人々

「御かゆ」


などけしきばむめれば、

「例くはぬものなれば、なにかはなにに」


と心よげにうちいひて、

「太刀とくよ」


とあれば、大夫とりて簀子(すのこ)にかたひざつきてゐたり。のどかにあゆみいでて見まはして、

「前栽(せざい)をらうがはしく焼きためるかな」


などあり。やがてそこもとに雨皮はりたる車さしよせ、男どもかろらかにてもたげたれば、はひ乗りぬめり。したすだれひきつくろひて中門よりひきいでて、先よいほどにおはせてあるも、ねたげにぞきこゆる。日ごろいと風はやしとて、南おもての格子はあげぬを、今日かうて見出だしてと許(ばかり)あれば、雨よいほどにのどやかにふりて、庭うちあれたるさまにて草はところどころあをみわたりにけり。あはれと見えたり。ひるつかた、かへしうちふきて晴るる顔の空はしたれど、ここちあやしうなやましうて、暮れはつるまでながめくらしつ。



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