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蜻蛉日記原文全集「又つごもりの日許に」
著作名: 古典愛好家
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蜻蛉日記

又つごもりの日許に

又つごもりの日許(ばかり)に、

「なにごとかある。さわがしうてなん。などか音をだに。つらし」


など、はては言はんことのなさにやあらん、さかさまごとぞある。今日もみづからは思ひかけられぬなめりと思へば、かへりごとに、

「御まへ申しこそ御いとまひまなかべかめれど、あいなけれ」


と許(ばかり)ものしつ。


かかれど、今はものともおぼえずなりにたれば、なかなかいと心やすくて、夜もうらもなううちふして寝入りたるほどに、門たたくにおどろかれて、あやしと思ふほどに、ふとあけてければ、心さはがしく思ふほどに、妻戸(つまど)口に立ちて、

「とくあけ、はや」


などあなり。前なりつる人々もみなうちとけたれば、にげかくれぬ。みぐるしさにゐざりよりて、

「やすらひにだになくなりにたれば、いとかたしや」


とてあくれば、

「さしてのみまゐりくればにやあらん」


とあり。さてあかつきがたに松ふく風の音いとあらくきこゆ。ここらひとりあかす夜、かかる音のせぬは、もののたすけにこそありけれとまでぞきこゆる




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